第19話 アイム対シロガネ
レオンとエミリとシロガネは、見物人に囲まれていた。
シロガネは、受け取ったお金を財布にしまった。
見物人が離れていく。
三人は、白い建物がある北のほうへ向かった。
「用事ができた」
「なに? 聞いてないよ?」
レオンの言葉に、エミリが驚いている。微笑んだまま首をかたむけて、真意を探る構え。
「バトルできると思ったのに」
「残念だね」
ヤヨイとカケルは、気持ちをそのまま表情に出していた。
細身の青年がシロガネを見る。
「真似できるって言ったのはこの人……」
続きを言わず、少女と少年に向かって話す。
「二人とも、一緒にいこう」
ヤヨイとカケルを誘った。
「ダブルデート? いいよ」
レオンとエミリは、ヤヨイとカケルを連れて歩いていく。
朝日が照らす面々は、不思議そうに見送った。表情をあまり変えないシロガネを除いて。
離れていく姿を見つめる五人。後ろに、誰かがいた。
「おはよう。珍しいメンバーだね」
おさげの少女が微笑んでいた。十代後半で、青い服。
スズネとタクミ、カイリとコスミが挨拶する。
シロガネは黙っていた。
「アイムって、いつも急よね」
「協会がらみか?」
「ということは、目的は一つですわ。耳が早い」
「はい、シロガネ。この男の子だよ」
コスミが手を取ろうとして、かわされた。アイムは、白い服の少年を見つめる。
「よろしくね」
シロガネ以外の四人が表情を変えた。
「急にやられると、びびるって、それ」
長身の少年は慌てていた。
青い服の少女が、いたずらっ子のような表情を見せる。
「シロガネは、相手の強さを感じられないみたいね」
「ヤヨイもそうですわ。どうなっているの?」
「どうやって強さを隠してるか知りたい、あたしは」
灰色の服の二人が、別々のことを言った。
「時間もないし、模擬戦しましょう」
「相変わらず、マイペースね」
ミドルヘアの少女は呆れていた。
アイムとシロガネが、広場の中心を目指して進む。
緑色の広場の中心付近から、円形のドームが広がる。
高い位置の傘を通り抜けた。
精神体になったアイムは、青緑色の服。
しずかに東寄りに立つ。
精神体になったシロガネは、灰色の服に鎖が巻きついている。
西寄りに立つ。
宙に丸が3つ浮かぶ。東と西の2ヶ所。下側にそれぞれの顔が表示されている。
戦闘空間が辺りを飲み込む。半径150メートルまで広がり、止まった。
「心が不安定なのね」
おさげの少女が右手を握る。淡く光る刀が発生した。
「何を知っている」
ゆるやかに波打つ黒髪の少年が、鋭い眼差しを向ける。足元に闇が広がった。
「よかったわ。人の形をしていて」
アイムが走る。一気に距離を詰めた。闇の領域から伸びる刃を刀でそらす。
構えには決まった形がない。
アイムは3つめの刃を受け流すと、すこし速度を落とした。
シロガネのすぐ近くまで迫るアイムに、黒いムチが襲いかかる。
アイムは、刀で闇を斬った。
「身体さえ動けば」
鎖に縛られるシロガネが、渾身の力を込めて右腕を上げた。
すると、何もないはずの空中に闇が現れた。
闇は刃の形になり、うしろからアイムに命中。
アイムはすでに刀を振るっていた。お互いの丸が1つ消える。
「何が起きた?」
シロガネは状況を理解できていなかった。
アイムが答える。
「扱えるものが、固体と液体だけじゃないってこと」
そして、すこし後ろに下がる。
「続けましょうか」
広場の外。白い建物を背に北側で見守るタクミは、左手を顎に触れている。
「どうなってるんだ? って、カケルいねえ」
「ほかの人を頼ってると、モテないわよ」
髪をそよ風にゆだねながら、スズネがため息を吐いた。
カイリとコスミはタクミを頼っている。
「わたくしに教えてくださる?」
「あたしも、知りたい」
「任せろ」
戦いが再開されて、再び空中から刃が現れた。うっすらと黒いもやが見える。
「靄。そうか。分かったぞ。気体だ」
「どうやって避けるのよ、それ」
「俺に聞かれても困る」
カイリとコスミは二人を見つめていた。
「水が蒸発するイメージ」
鎖に縛られた少年が呟く。右腕は前を向き、地面と水平近くまで上がっている。
シロガネの周りに現れた黒い霧が、すこしずつ濃さを増す。
右から振られた刀を、空中に出現した刃がはじいた。
すぐに足元の闇から刃が伸びる。
おさげの少女は、半球体の光の壁でガードした。
「集まって瞬間冷凍」
空中に無数の刃が現れた。同時に襲いかかる。
刀はすでに構え直されていた。先にシロガネを捉える。
遅れて、刃がアイムを捉えた。
二人とも丸が1つ減る。どちらも残り1つ。
「合格」
アイムが言った。
「は?」
「A」
「なんだ、急に」
「ランク付け。ランクAまでなら、私が決めてもいいの」
「……」
「いま攻撃すれば、勝てたかもしれないのに」
「それは面白くない、って言う立場だろ? オマエ」
シロガネは不機嫌そうな顔をしていた。アイムは微笑んで、後ろに下がった。
少年は、液体と気体の攻撃をやめた。
闇から伸びる刃で攻撃をつづける。相手を見据えながら。
おさげの少女が口を開く。
「話を聞かなくていいの?」
「まずは基礎練習からだ」
流れる雲のように変化する、捉えどころのない動きで刀が振るわれる。
8つの刃がそらされ、2つの刃が斬られた。
2度ガードされて、最後の刃で狙う。
正面から伸ばした攻撃は止まる。刀がシロガネに届いていた。
二人が肉体へと帰る。戦闘空間が消えていく。
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