第18話 レオン・エミリ対シロガネ
「おれの能力は
「うちは、
「長く戦いたいなら、おれだけを狙えばいい」
「それでいいよ。通常弾の練習する」
レオンは、対戦相手に向けて歩き出した。
エミリは戦う気がないらしい。
広場の北にいるヤヨイたちから見て、左側。東の空中に、丸が浮かんでいる。
丸は縦に3つずつ、2列。下側には、レオンとエミリの顔がそれぞれ表示されていた。
相対する少年は、西寄りに立つ。鎖に縛られ、敵意を向けながら。
「最初から、そのつもりだ」
低い声のあと、シロガネの足元に闇が広がる。地面は円形に変色した。
広場は、緑色の部分が三日月形に残る。
西の空中に、丸が3つ浮かんでいる。丸の下側にはシロガネの顔が表示されていた。
「模擬戦だから、あの闇、使い放題だろ?」
「あれ? びびってるの?」
「分析してるだけ、だ」
タクミとスズネが話を続ける。
少し離れた場所で、カイリとコスミが聞いていた。
「なんで突っ立ってるんだ。こっち来て座れよ」
「あら。優しいのね」
「おれから言ったらなんか、あれだろ。スズネから言えよ」
長身の少年がぼやく。
ミドルヘアの少女が立ちあがった。二人に近付く。
女性の手を引いて、タクミの側に連れていく。
少女は黙ってついてきた。
タクミの横にスズネが座り、すぐ横にカイリとコスミが座った。
四人は雑談を始める。
まだ日が出ていないのに、広場に見物人が集まってきた。
放送される試合よりレベルが高いと評判だからだ。円の外に並ぶベンチが埋まっていく。
ちなみに、噂を流したのはカイリとコスミである。
「素晴らしい成長だ」
濃い黄色の服の青年は、目にもとまらぬ速さで動いた。
直後に、黒い地面から黒い刃が伸びる。
身体のあちこちから光を噴射するレオンが、慣性の法則を無視するかのように躍動。
全身が光に包まれて、鎧を着ているように見えた。
13個目の刃が空を切る。
「それが全力か?」
灰色の服の少年は、身体に巻きついた鎖の重さで動けない。
シロガネは相手を睨みつけていた。レオンは攻撃する様子がない。
「いや、模擬戦だからできる。実戦でやるには、まだまだ心を鍛えないと」
「条件は同じだろ」
「シロガネは、まだ二日目だ。同じじゃない」
黒い刃が地に沈んでいく。見物人はどよめいていた。歩道から見守る街路樹は、普段どおり。
「ヤヨイなら、どうする?」
「正面からぶつかる!」
「まあ、同じことができるからね」
広場の北側に座って観戦するカケル。隣の少女が笑顔を向ける。
少年は、つられて微笑んだ。
地面の闇から伸びる黒いムチが、レオンを捉えた。
腕の位置でガード。姿勢を低くしてやり過ごしている。
「いいぞ。どんどん来い」
心底嬉しそうに笑う青年。身体から迸る光は、輝きを増していた。
エミリは広場の緑色の部分で特訓している。弾はまだ出ない。
黒い液体状のムチは形を保てず、すぐに闇へと沈む。
「なぜできない。これじゃ、いつもと同じだ。いや、違う。努力すれば……」
闇の中心で、ぶつぶつと呟きつづけるシロガネ。
「そうだ。バトルなら、心で負けるはずがない!」
2メートル以上もあるムチが次々と現れた。8つが別々の動きをする。
生き物のようにレオンを襲った。
「ゴミみたいな人間は、全て倒す」
2つの短剣で凌げるのは2つ。
半球体の光の壁は全身を守れない。四方八方から巻き付かれ、レオンの動きが止まった。
東の空中に浮かぶ丸が、1つ消える。
「もっとだ。ぼくの心は、こんなものじゃない」
「何があったのか、おれは聞かない」
ムチが溶けるように闇に沈みこんで、レオンが姿を見せた。続けて口を開く。
「話したくなったら言ってくれ」
「解ってたまるか。バトルでしかまともに話せない、ぼくの気持ちが」
少年は拳を握りしめていた。腕を持ち上げようとして、動かない。
「そうだな。分からない。だから、能力を真似できる人のところに連れてきた」
「真似?」
「戦った相手の力を使える。凄いのは、戦えないランクZの――」
「黙れ!」
シロガネが吠えた。心を燃やすことをやめない。
「誰にも、真似されてたまるか」
4つのムチが足元から現れた。
「参ったな。楽しんでもらおうと思ったのだが」
細身の青年は、1つを避ける。2つを短剣で防いで、1つをガードした。
足元から連続で刃が伸びる。レオンは攻撃を受けた。
遠くから声が聞こえる。
「うちの丸、いる?」
「いや、いい。あとは任せた」
正面から突っ込んでいったレオンが、電光のごとき速さでシロガネに拳を当てる。
同時に刃を受けた。空中に浮かぶレオンの丸は、すべて消滅。
戦闘不能になり、精神体は肉体へと帰っていった。
「本気を出せ! 畜生。恥を知れ! 恥を!」
シロガネの丸は2つ残っている。
そして、エミリの丸は、まだ3つある。
「できた!」
エミリは、手のひらから光の弾を発射した。
弾はミニトマトほどの大きさ。目で簡単に追える、のんびりした速度だ。
シロガネは、重い鎖に抗って前に歩いている。
ゆっくりと近付いて、弾にぶつかる。
シロガネの丸が減った。残り1つ。
鼻で笑った少年は、すこしだけ雰囲気が柔らかくなった。
日の光があたりを照らし始める。
桃色の服のエミリは、ひたすら通常弾を撃ち続けた。
半球体の光の壁で防ぎながら、シロガネはゆっくりと相手に近付く。
エミリの足元まで黒い円が到達した。
地面から伸びる刃を無視して、エミリは走る。意外に速い。右手を構えて、棒を出現させた。
棒の先には、大きな丸い塊がついている。鈍器だ。
エミリに刃が当たり、丸が1つ減る。
直進するエミリは、シロガネに近付いていく。刃が当たり、丸は残り1つ。
目の前で鈍器を振り上げる。
3つめの刃が当たり、戦闘空間が消えていった。
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