第14話 色のない夢

 薄い灰色の服の女性が、短剣を振りかざす。

 濃い灰色の服の少女は、半球体の光の壁で防いだ。

 特殊な能力を使わない模擬戦。

 シロガネは、居間での基礎練習を見つめていた。

 お世辞にも広いとは言えない部屋。カイリとコスミの動きは、大きく制限されている。

 すぐに模擬戦は終わった。

 カイリが指摘する。

「針、飛ばなかったわね。発想はよかったけど」

「維持するの、ムリ」

「ガードの切り替え遅くない?」

雪達磨ダミーに頼りすぎ。反省」

 続いて、コスミが戦いを振り返る。

「逆手持ち、様になってきた」

「防がれるようじゃ、まだまだだわ」

「多くない? 相打ち覚悟」

精神牢バロウを当てにしてはダメね」


 しばらくして、お風呂が沸いた。

「わたくしからで、いいかしら?」

 異議なし。

 カイリのいないあいだに、二人は模擬戦を始めた。

 灰色の服に鎖の巻きついたシロガネと、濃い灰色の服のコスミ。

 少年が足元から刃を出し、少女がガードする。

 1回ごとに横へ移動していく。

 13個の刃が、同時に黒い円に沈んだ。

 バトル中は普通に話す少年が、ぶっきらぼうに言葉を放つ。

「いくぞ」

 次の刃をガードしながら、コスミが言う。

「ありがとう」

「何が?」

「付き合ってくれて。練習」

 猫目の少女は無表情に見える。つややかな髪は、精神体のため揺れない。

「こんなの、なんでもない」

「強いってだけで、役に立ってるんだよ」

「そうか」

 もさもさした髪の少年は、険しい表情ではない。

「ごはん、どうだった?」

「うまかった。食べすぎた」

 模擬戦が終わる。


「わたくしたちのチーム、ハリのムシロも賑やかになりそうね」

「……」

 お風呂から出たカイリに、シロガネは無言を返した。

「ダメ。勝手に決めちゃ」

 次に、コスミが入った。

 出る頃には、少年の目が閉じそうになっていた。

 最後にシロガネが入って出てくる。

 早い。シャワーだけと思われる。

 シロガネの濡れたままの髪を見て、カイリが洗面所に連れていき乾かす。

「ポケットの中に、情報端末を入れっぱなしだったわ」

「持ってたの? 番号なに?」

 寝間着姿のコスミが聞いた。

 同じく寝間着姿のシロガネ。情報端末の操作に慣れていない様子。

 寝間着姿のカイリが操作して、三人とも番号の登録に成功する。

 シロガネは何も言わなかった。だが、反対しなかった。


 白や灰色が多い。モノクロームの景色。

 どこかを歩いている。田舎の田園風景が広がっている。

 周りには誰もいない。

 ほそい道をひたすら歩く。民家は数えるほどだというのに、いくら進んでも終わりがない。

 空は薄い灰色。雲が白いのか灰色なのかも分からない。

 ざらつく空が砂嵐のようになる。

 居間の布団の中で、何かが動いた。灯りはともっていない。

 シロガネが目を覚ました。

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