第2話 心内にある、白色の少年

 町に近付くバス。窓の外は緑の景色。

 男女二人が急に黙った。

 何かに気付いた様子のレオンとエミリ。ほかの乗客に変化はない。

 それぞれの荷物を持ち、二人は町の手前で降りた。


 停留所からすこし北に戻った場所。

 道の側。草むらに、白い何かが転がっていた。

 近付くと、黒い部分が見えた。肌色の部分もある。

「能力者の多くは列車を利用するから、発見されなかったのか」

「痩せてるね、この子」

 白い服の少年は、無言で二人を見た。目の下にくまがある。

 黒髪で、もさもさとしたくせ毛。歳は十代半ば。

「立てるか?」

「もうすぐお昼だよ。町で何か食べよう」

 返事がない。差し出した手は、握り返されなかった。

 大きな影が重なる。歩く力も残っていないような少年を背負う、レオン。

 エミリが二人分の荷物を持って、三人は町へと向かう。

 少年は荷物を持っていなかった。


 水が豊富な町。広い道に沿って、多くの水路がある。

 街路樹が多く植えられていた。車は少ない。

「何が食べたいの?」

「遠慮するな。腹、減っているだろう?」

「……」

 少年は一言も喋らない。

 二人が三人分の食べ物を買って、近くの机へと歩いた。

 歩道に並ぶ、まるい机。上には傘が付いていて、日差しを防ぐ。

 三人は椅子に座った。ほかにも、いくつかの椅子が机の周りに並ぶ。荷物はそこに置かれた。

 パンに色々な具がはさんである料理を食べる二人。

 黒髪の少年も食べ始めた。

 口の中のものを飲み込んで、レオンが聞く。

「喋れないのか?」

 少年の反応はない。続けてエミリが聞く。

「喋らない?」

 少年は小さく頷いた。もぐもぐと食べ続ける。

 二人は、それ以上追求しなかった。

 目の下にくまがある少年は、目を合わせようとしない。

 トマトジュースを飲み干して、三人は食事を終えた。


「能力バトルしないか? それで食事は奢りだ」

 楽しそうなレオンの言葉に、少年は眉を下げた。

 まるい机を囲んだ三人が、そろって不思議そうな顔になる。

「相手の強さを感じ取れないのか」

 少年は居心地が悪そうな様子。口を閉じて、おとなしく話を聞く。

「知らない、ってことはないよね。こんなに強い力があって」

「戦ったことがない、ということもあり得る」

「ヤヨイの田舎では、戦ってても素通りされる、だっけ」

 納得したエミリとは対照的に、少年の頭には疑問符が浮かんでいた。

「世界は広いからな」

 生気がなく何も話さない少年に説明する、エミリとレオン。

「精神力を消費して戦うの。先に全部なくなるか降参で負け」

「攻撃でも力を使う。能力によって消費する度合いは違うぞ」

「ガードしても削られるからね、ちょっと」

「精神力を消費しない模擬戦というのもあって――」

「続きは、歯ブラシ買って歯磨きしてからにしよ」

 微笑んだエミリは、有無を言わさず話を進めた。


 情報端末をいじったエミリたちは、徒歩で移動。

 三人は歯科に入った。歯ブラシを購入する。レオンの荷物へ加わった。

 予約が必要なため、診察はできない。すぐ外に出た。

 さわやかな笑顔の二人と眠そうな顔の一人は、公園を目指す。

 洗面所で取り出される歯ブラシ。

 少年は、ぎこちなく歯を磨きはじめた。

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