第三章 灰色の二人
第9話 カイリ・コスミ対シロガネ
ジョーとシロガネの模擬戦が終わる。
一方的な試合だと、見物人の反応は薄い。
まるい広場に女性がやってきた。二十代半ばで、灰色の服を着ている。
「強い力を感じて来てみれば、ずいぶん可愛らしいですわね」
「そのセリフはどうかと思う。男の子に」
十代半ばの少女が現れた。女性の陰から出てきて、同じく灰色の服。
南にある選手用のベンチから、男性が勢いよく立ち上がり、笑顔で近付いていく。
ダンが、少年を一時的に預かった経緯を説明した。
対戦した二人が来客のもとへ移動。
ベンチの周りに六人が集まった。
広場の西側上部にある傘が、斜めからの日差しを軽減している。
ニヤリと笑う、半目ぎみの女性。
「まずは自己紹介を。わたくし、カイリという者ですわ」
「よろしく。あたし、コスミ」
猫目の少女は無表情だ。
シロガネは何も喋らない。白い服の少年は、同じくらいの背の少女をちらりと見た。
「強いぞ、シロガネは。三人とも負けた」
「そうだね」
悔しそうなジョーに、ダンが同意した。ガイも続く。
「ああ。強い。俺が保証する」
「わたくしたちに、勝ち目あるのかしら」
「無理。三人で、でしょ? でも、ダメで元々」
「コスミがそうまで言うのなら、やりましょうか」
カイリとコスミの言葉に、シロガネが小さく頷いた。
2対1での模擬戦が始まる。
黄土色の広場の中心付近から、光のドームが広がっていく。
肉体が光の壁に包まれて、精神体が分離。薄い灰色の服のカイリが現れた。
隣でも分離。濃い灰色の服のコスミが現れる。
おなじく精神体が分離したシロガネ。灰色の服に鎖が巻きついている。
ジョーとガイとダンは、南のベンチに並んで座っていた。
辺りを飲み込んで、シャボン玉の上半分のような膜が膨らんでいく。
戦闘空間は広場の3倍近くまで広がり、止まった。
「狭いわね。空間を制限できるのかしら」
「そんなことできるの? 勝手に広がるのに」
「鎖なんてものがあるのよ。ありえそうじゃない?」
緊張感のない二人がいる東側。宙には丸が浮かんでいる。3つが縦に、2列。
下側に、カイリとコスミの顔がそれぞれ表示されていた。
「ずいぶん余裕じゃないか」
西側に離れて立つシロガネが、低い声を出した。
宙には丸が3つ。下側に顔の表示。
足元に闇が広がっていく。黄土色の広場をはみ出し、半径約30メートルが黒く染まる。
それが届いていない二人は、三日月部分に立つ。
「あら。格好良くない?」
「珍しいね、カイリが。気に入ったの?」
「コスミと気が合いそうだわ」
「まず自分でしょ。あたしより」
周りの観客たちが黙って見守る中、二人は、話しながらシロガネに近付く。
「その闇のお名前は?」
薄い灰色の服の女性が尋ねた。
「
円形に広がる黒い地面の中心で、少年は答えた。
「油断してないよ、全然」
濃い灰色の服の少女の周りに、人型に近いものが出現していく。
シンプルな見た目。縦に2つ球がくっついた物体。白い。
無数に現れて、猫目の少女の姿が消える。
「一回くらい攻撃を当てたかったわ」
半目ぎみの女性は、右腕を黒く変色させた。口元を緩めながらも残念そうな表情。
シロガネの眉間のシワが消える。
「ようやく面白そうなのが出てきたな」
カイリが黒い領域に足を踏み入れた。
同時に、人間大の雪だるまのようなものが13個現れた。
外に出現していたものは消えている。
「技を聞いておいて、そっちは言わないのか」
鎖に縛られたシロガネは動かない。刃も出さなかった。
消えた数だけ、突然別の場所に現れる雪だるま。
それを盾にして近付くカイリを、目で追っていた。
「戦う前に能力を教えるなんて、おバカさんですわ」
「あたしは、いつもすぐ使うからいいけど」
コスミの声が聞こえてきた。姿はない。
まるい広場の外。南のベンチに座るジョーは渋い顔。
「そう。教えなければ、確実に先制できる能力もあるというのに」
「面白くないぜ。それは」
「だよね」
ガイのセリフを予想していたダンは、小さく笑った。
カイリが身を隠しながら近付いていく。
雪だるまが半径2メートルの距離に現れても、シロガネは何もしない。
「
黒い右腕が、シロガネの左腕を掴む。同時に左手で攻撃を浴びせた。
短剣を逆手に構えたカイリは、再び白いかたまりに身を隠す。
西に浮く丸が1つ消えた。
シロガネが左腕を見ると、肘の辺りから先がなくなっている。
「なんだ。命までは取れないのか」
寂しそうな顔の少年は、12個の雪だるまを黒い刃で貫いた。
遠い場所の1つだけ貫けなかった。
雪だるまが消えて、胸で刃が止まっている状態のコスミが現れた。東の丸が1つ消える。
コスミの姿が消えていても無敵ではない。精神体はどれかの中に潜んでいるだけ。
「
シロガネの近くで沈んでいく刃の陰から、カイリが身をさらす。
「軽いわね、この腕。重そうなのに」
鎖の巻きついた左腕をぶらぶらと動かしてから、地面に置く。
カイリの能力は、精神体の一部を奪うというもの。頭と心臓の部分は不可能という制約がある。
「軽い? どうなっている」
シロガネはカイリの足元から闇を伸ばした。
液体の状態を維持している。
「わたくしに聞かれても、困りますわ」
言葉のあとで、刃が次々と伸びていった。
同時に2つの丸が消えた。
人間大の雪だるまが、あちこちに現れた。その数、20。
濃い灰色の服の少女が姿を消す。
「まずいよ。あたしあと一回」
「二人で一回ずつよ。チャンスは今」
薄い灰色の服の女性が駆け出した。
刃が地に沈む間に、左手で少年へ一撃加える。
黒かった右腕が元に戻る。その手に、光の短剣が握られた。
「もう一撃」
腕は、下から伸びた刃2つで止められた。
東の丸が消える。残りは一人1個ずつ。
シロガネの左腕は元に戻っている。
「やはり人間はこの程度か」
「シロガネも人間でしょ。人間離れしてるけど」
コスミの声が響いた。
「違う!」
闇から伸びるものは、刃の形をしていなかった。
ムチのようにしなる攻撃が、横薙ぎに雪だるまを消していく。
当たる前の雪だるまが消えた。ほかの場所に現れる。
ムチがもう1つ現れて、そちらも薙ぎ払う。
能力を解除し姿を見せたコスミが、光の針を手に走る。少年に届かず、黒い刃に捉えられた。
カイリの下からも刃が伸びる。模擬戦は終わった。
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