第22話 タクミ対シロガネ

「頑張ったな。敵はとってやるぜ」

 紺色の服のタクミが、爽やかな笑みを見せた。

 スズネは複雑な表情をしている。

「無理しないでいいからね。本当だから」

 緑色の広場へと向かう、長身の少年。肘を曲げ、親指を立てて拳を握った。

 隣を、すこし背の低いシロガネが歩いていく。服は白色。

「なんであいつ、あんなにやる気なの」

 ミドルヘアの少女は、眉を下げながら笑った。

 北にある白い建物の近く。灰色がならぶ横に、橙色が座る。

 街路樹の影が、早朝より短くなっている。日はすこし高くなった。

 空は澄み渡る青。


 タクミが歩きながら何かを言った。東寄りに立つ。

 西寄りにシロガネが立って、戦闘空間が広がる。

 すぐに精神体が分離。

 青い服のタクミが、顎の下に手を当てる。

 灰色の服に鎖が巻きついているシロガネは、体勢を変えず立つ。

 そして、空中に浮くのは精神力を表すゲージ。縦に長い。

 東のほうは、下側にタクミの顔が。

 西のほうは、シロガネの顔が表示されている。

 光る膜のようなドームが、辺りを包んで止まった。歓声を上げる見物人たち。

「能力バトルですわね」

 灰色の服のカイリが、のんびりと告げた。

 同じく灰色の服のコスミ。あどけない顔で、何も言わずにスズネのほうを見る。

「やっぱり、びびってた? 模擬戦だと闇使い放題とか言ってたし」

 三人並んで座る女性たち。


暗黒物質ダークマター

 シロガネが能力を使う。足元に黒い円が広がった。

 広場は半分近くが変色。残った緑色の部分は、三日月形になる。

 鎖の巻きついた右腕が上がり、黒い霧が現れた。

「まずは小手調べだ。かがみ

 タクミも能力を使った。

 シロガネの頭上、広範囲に無数の鏡が現れた。静止したその数、100。

 長身の少年は、次々と光の弾を発射する。

 鏡に当たって反射する通常弾。上空から、ほぼ同じ場所へ降り注ぐ。

 ぽんぽんと撃ち込んだ数は30。

 狙っている場所に全ての弾が向かった。小さな鏡が一斉に消える。

「コイツ、濃度の薄い上を狙って」

 もさもさとした黒髪に近付く弾を、一発ガードした。シロガネが首を動かす。

 東のゲージは、上側がほんのわずか減っている。

 西のゲージは、上から10分の1ほどが減っていた。

「霧は消費が激しいみたいだな。まだ続けるか?」

「近付くだけだ」

 シロガネは手を下ろし、歩こうとする。

「接近戦は苦手だが、仕方ないな」

 自分から黒い円へと歩きながら、タクミがさらに口を開く。

「スズネより足が遅いぞ、俺は」

 タクミの前で、黒い水面が揺らめいた。

 足が止まる。

 足元の黒い部分が、広範囲で銀色に変わった。

 六角形の鏡が組み合わさり、1つの大きな鏡を形成している。

 出るはずの刃は、別の場所から突きだした。

「全面を覆ってもいいんだが?」

 ふてぶてしい表情のタクミ。

 シロガネは、苦虫を噛み潰したような顔になる。

「これが相性の壁」

 広場の北で見守るスズネは、呆然としていた。

 はっと我に返る。

「ちょっと。ずるい! 反則!」

「そんなに格好良かったかしら」

「カイリ。それ、どういう解釈?」

 猫目のコスミは、狐につままれたような顔をしていた。


「なんでも話してみろよ。聞いてやるぜ」

 青い服の少年は、闇の上を歩く。

 足元から伸びる刃が、空中の鏡で曲がる。

 タクミは進む。

「気付いたときには、普通に言葉が出なかった」

 シロガネが話し始めた。バトル中なので、言葉が途切れることはない。

「それだけで、ゴミのように虐げられてきた」

 足元から刃が伸びる。タクミはガードした。

「同族にあんなことはしない。つまり、ぼくは人間じゃない」

 タクミは、シロガネのすぐ近くまで近付いた。

「話せないのに、できないことをやれと言われ続けた」

「ひどい奴ばかりだったのは同情するぜ。戦い始めてからは、そうじゃないだろ?」

「今更! どいつもこいつもバカなだけだ」

「否定できないな」

 伸びる刃は、ことごとく鏡で跳ね返る。シロガネのゲージを削っていった。

 左手を構え、光の棒を出現させるタクミ。長さは肘から先とほぼ同じ。

 11個目の刃を弾いた。

 12個目の刃は、右手に発生させた棒で凌ぐ。すぐに消した。

 13個目の刃を正面から止める。

 棒が一閃。シロガネのゲージは残り3分の1。

 棒が動きを止めた。

「接近戦が苦手?」

「そうだ。バカな連中のおかげで、少しはマシになったけどな」

「もう無理だ。鎖のせいで」

 刃が闇に沈んでいく。少年は鎖を見ていた。

「鎖が重いのは、お前がそう感じているからだ」

「心が、か」

「鎖も含めてお前だ」


 シロガネは、すこし柔らかい表情になる。

「心が力になる。そういうことか」

 たれ目ぎみのタクミが棒を消した。

 灰色の服に鎖が巻きついている少年は、朝日をてのひらに浴びた。

 両手を高々と上げ、高い場所の傘を見る。

 やわらかな光が舞い、戦闘空間が大きく広がっていく。手と視線を下げた。

 足元の闇が消える。

 右手を構え、黒い霧を噴射させた。

「気体が燃えるイメージ」

 右手から銀色の炎が噴き出した。

「おいおい。精神力が尽きるぞ」

「固定化させる」

 炎が、凍りついたように固まった。

 銀色の剣を見つめる。

 戦闘空間ならではの現象に、タクミは驚きながら笑っている。

「俺は、棒を維持するのに二日かかったのに、な」

 シロガネが腕を動かして、剣を確認する。

「でもな、俺には効かないぞ、それ」

「新しい技を考えた」

「マジかよ。どんなのだ?」

 バトル中にもかかわらず、二人は談笑していた。

「レオンと似た技。効果は低いだろうけど」

「おい。それ、俺が相性悪いやつだろ。で、名前は?」

心燃強化ブースター

 言葉のあと、銀色の炎が身体のあちこちから噴射した。

 タクミに襲いかかる。

「いきなりかよ!」

 鎖の重さがゼロになったわけではない。レオン並の速度は出ない。

 代わりに、すこし燃費がいい。

 タクミに拳が当たったのは一度。

 自分のゲージが尽きかけて、シロガネは能力を解除した。


「動かない振りしてもいいんだぜ。お前に負けたやつらがリベンジしに来るから」

暗黒物質ダークマターと、かなり相性が悪い人がいたけど?」

「それでも来る」

「バカだな」

「そいつらがいなかったら、いまの俺はいない。俺も能力バトルバカの一人だな」

「参った。降参だ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る