第16話 空の色

 まだ暗い空。辺りも薄暗い。

 広大な大陸にある、能力者の聖地と呼ばれる大きな町。緑や公園が多い。

 その西側。この国では珍しい、和風の民家が建っていた。

 狭い庭がある、小さな平家の中。木に囲まれた台所。

「いただきます」

「いただきます」

 二十代半ばの女性と十代半ばの少女が、ほぼ同時に言った。

 向かいの席の少年は無言。十代半ばで寝癖のある髪。眠そうだ。

 三人は同じ机を囲んで座っている。朝食を食べ始めた。

 左側にご飯。右側にみそ汁。具沢山。真ん中には、卵焼きと焼き魚の切り身。

「ごちそうさまでした」

「ごちそうさまでした」

 食べたあと、灰色の服の少女が少年を見る。

「今日、どうする?」

 聞かれた白い服の少年、シロガネは答えない。

「わたくしに考えがあるわ」

「カイリ、まだ早くない?」

「コスミが言うなら、通話はやめておきましょう」

 灰色の服のカイリは、情報端末でエミリにメッセージを送った。

 猫目で様子を見るコスミは、同じく灰色の服。

 向かい合って座るシロガネが、少女を見た。

 少女のうしろに食器棚がある。ガラス戸に映る自分と目が合う。

 白い服の少年は視線をそらした。


 しばらくして、二人と一人に別れて歯を磨いた。

 シロガネは、まだ歯磨きに慣れていなかった。


「財布は持ったかしら?」

「持ったよ」

「歯ブラシは?」

「はい」

「……」

 廊下で三人が歯ブラシを構える。ほぼ同時にしまった。

 少年の寝癖は直っている。

 頭のもさもさが少しおとなしくなった。

 半目ぎみのカイリがセットしていた。昨日着ていた服も洗濯されている。

 シロガネに抗うすべはなかった。バトルでなければ能力は使えない。

 三人は玄関で靴を履く。

 全員、靴の大きさが違う。間違うことはない。

 誰も鞄を持たずに、玄関の戸を開けた。


 家を出た三人は、歩道を歩く。停留所へと。

「せっかくですし、バスで参りましょう」

「何が、せっかくなの?」

 薄暗い空の下、細長い大きな車がやってきた。

 三人は入り口で料金を払う。

 バスにほかの乗客はいなかった。運転手と三人を乗せて、東へ進む。

 四角い建物とまるい広場、たくさんの街路樹が流れていく。

 広い道にほかの車はなかった。

 3つ繋がった座席は最後部にしかない。入り口は真ん中付近。

 二人と一人に別れて座っていた。

 シロガネの隣で、コスミが街の説明をしている。

 町の中心部。大きく立派な建物を通り過ぎる。

「能力者協会。よく見えなかった」

 三人の目的地ではないため、素通りする。

 進んでいくと、急に雰囲気が変わった。広い戦闘空間に突入したためだ。

「いつもの模擬戦ですわ」

「降りるよ」

 停留所まではまだ遠い。空間の広さは、これまでとは桁違いだった。

 ドアが開く。

 運転手だけを乗せたバスが走り去っていく。

 薄暗い空を覆う、巨大な光のドーム。向こう側の元の色が分からない。

 すこし歩くと、緑色の広場が見えてきた。

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