第4話 刹那の薄紫

 レオンの精神体が肉体へと帰っていく。矢のような速さ。

 光の壁の中から、淡い黄色の服を着た青年が現れた。

 すこし遅れて、シロガネの精神体も肉体へと戻る。

 すぐ近くにある光の壁の中から、白い服の少年が現れた。鎖はない。

 公園と、その周辺を覆っていた戦闘空間も消えていく。

 シロガネが腕を動かす。

 すこし背の低い少年は、不思議そうな顔をレオンに向けた。

「お互い、いい経験ができた、だろ」

 少年から返事はなかった。

「サインください」

「これが初めてって言ってなかった?」

「マジかよ」

「模擬戦だから、気持ちだけでいい」

 レオンの遠慮は無意味だった。二人は大勢の見物人に取り囲まれて、お金を渡された。

 シロガネは状況を把握できていない。オロオロするばかり。ポケットに手を突っ込んだ。

「やはり、能力バトルの人気も知らなかったようだな」

「……」

「公式戦よりすごい! 今度参加して」

「ああ、気が向いたらな」

 レオンが手を振って、見物人たちは離れていった。


「これからどうする?」

 手招きしたエミリ。左右にある荷物をどけて、二人がベンチに座った。

「どうするか決めるのは、おれたちじゃない」

 レオンの言葉に、シロガネは反応しない。

「バトル中なら喋ってくれるから、うちが模擬戦?」

「見物人が集まると面倒だぞ」

「アイムみたいに、力を制限できればよかったね」

 二人の話に興味がなさそうなシロガネは、空を見ていた。

 日は高い。すこしだけ西に傾いている。

「これだけの力、放っておくのは惜しい。鎖も気がかりだ」

「やっぱり、協会本部に行くしかない?」

「まずは聖地の話を聞いてもらおう」

 レオンは、能力者の聖地と呼ばれる町について説明した。

 世界各地から能力者が集まる、バトルが盛んな町。

 この星では統一言語が使われているため、言葉の勉強は不必要。

 様々なデータが集まる能力者協会。鎖を調べることも可能だという。

「シロガネの目的地は聖地だと思ってた。すぐ近くだから」

「おれも最初はそう思った。行くか?」

 シロガネは何も言わない。眼にすこし力が入った。

 立ち上がった少年が、細身の青年を見つめる。

「よし」


「あっ」

「あらら」

 バス内のレオンとエミリが声を上げた。

 シロガネはきょろきょろしている。

 窓の外。道の近くに立つ人影は、薄紫。

 大きな町の手前に誰かがいた。細長い車はあっという間に通り過ぎる。

「チカコだ。徒歩で移動するべきだったか」

「町の外より、駅前で待ったほうが人多くない?」

「こだわりがあるんだろう」

 三人は一番後ろの座席に並んで座っていた。

 シロガネが小さく鼻を鳴らす。


 能力者の聖地。

 四角い建物が遠くにそびえる。町の入り口に背の高い建物はすくない。

 まるい形の広場は能力バトル用。あちらこちらにある。

 大陸同様、道も広い。

 しかし、列車が主な移動手段のため、車はすくない。

 人工物に紛れて、たくさんの緑色。

 どちらを向いても、あまり背の高くない木々が歓迎していた。

 バスは街を走る。

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