第23話 広がる景色
まるい緑色の広場の中心に立つのは、タクミとシロガネ。
大勢の見物人が押し寄せていた。
お金を渡すついでに、シロガネに話しかける人も多い。
模擬戦より実戦のほうが沢山のお金をもらえる。放送される試合で勝ち抜けば、さらに高額。
「こいつ、バトル中じゃないと言葉が出にくいんだ。無茶言わないでやってくれ」
タクミの言葉に、見物人が情報端末をいじる。
何かを検索して納得していた。情報は、人々のあいだですぐに伝わる。
シロガネは、すでに自分の状態を知っていた。
「せっかくの相性のいい相手を、バトル中に強くする人がいるらしいわ」
言葉とは裏腹に、スズネは相手を笑顔で迎えた。
うしろには白い建物。
広場の北で、タクミとスズネが立ち話を始めた。
シロガネも歩いてくる。
近くの道には街路樹がならぶ。飛び立つ小鳥を追い、見上げた空は青い。
ところどころに白い雲が流れる。視線を下げて見渡す。
町にはたくさん公園があった。遠くからでも分かるほど、緑あふれる風景。
カイリとコスミが立ち上がった。みんなを日の光が照らしている。
お昼にはまだ早い。
シロガネが座る。コスミが隣に座った。
二人は広場のほうを向いている。
カイリは座らなかった。
白い服の少年は、大きなあくびをした。
「眠いの?」
首が横に振られる。
「ちょっとだけ、目の下にくまがあるよ」
灰色の服の少女が指摘して、シロガネはすこし眉を下げた。素朴な少女も、同じような顔になる。
「嫌味じゃなくて、伝えたかったのは、別のこと」
猫目が広場のほうを向いて、少年の顔に向いた。ふっくらとした唇が動く。
「あたしもカイリも誤解されやすい。口悪いから。同じだね」
「……ぼくほどじゃない」
シロガネは口元を緩めた。
「そんなことない。あたしと同じ人間」
ゆるやかな癖をもつ黒髪の少年は、無言で頷いた。
シロガネを除いた四人が、広場の東を見た。
妙な服を着た人物が立っている。ボサボサ頭で、顔がよく見えない。
服は複雑に混じり合ったような色で、ゆったりとしていた。
「シララじゃないか」
「ヤヨイ、出かけているのよ。レオンたちと」
タクミとスズネが近付き、優しい声をかけた。
「新しい子?」
背の高くないシララが言った。可愛い声だ。
ならんで座っていたシロガネとコスミが立ち上がる。
白い服のシロガネが紹介された。
二人は向かい合う。
「……」
「ボク、能力ないから。気にしないで」
シララはそわそわしている。もじもじして、はにかんだ。
「あら、もしかしていい雰囲気?」
「……」
カイリの言葉に、コスミの反応はない。
「また来る」
短い言葉を残して、去っていった。
「通話じゃない。レオンからメッセージだ」
タクミが情報端末をいじる。
スズネが覗き込もうとして、回避された。
「公式戦に参加するから見てくれ、だと。俺の部屋で観ようぜ」
「なんて返事したのよ?」
「こっちの問題は解決したって、な」
長身のタクミを先頭に、白い学生寮のような建物へと向かう五人。
スズネのあとが、カイリとコスミで、最後尾にシロガネ。
左から4番目の部屋に入る。
玄関で靴を脱いだ。
「ベッドの下は見るなよ」
「ふぅん」
壁は白を基調としていて、足元は木製で茶色。家具は黄土色。
あまり物がない。机の上の映像出力用ディスプレイが、異質な輝きを放っている。
ミドルヘアの少女が部屋を見渡す。
「相変わらず、ほとんど備え付けの家具だけじゃない。趣味ないの?」
「バトルが趣味なんだよ。安上がりだろ?」
中はあまり広くない。カイリとコスミの家のほうが広いことを知るのは、三人。
シロガネは何も言わなかった。
「ベッドの下に、このような物が」
「うわ。なにこれ」
半目ぎみの女性は、ベッドの下から何かを取り出した。
猫目の少女が興味津々な様子で見ている。
身体を鍛えるための、各種トレーニング器具だった。
「心と身体は同じものだから、両方鍛えるべきだ、だっけ? そういうことだ」
「受け売り丸出しじゃない」
つり目ぎみの少女は、腰に手を当てていた。
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