第2話『ママと一緒にお着替え』
「ゆーくん痛い! あ❤ うッ❤ もっと優しくして」
「変な声出すなよ! 店の人に勘違いされるだろうが!!」
服屋の試着室で、二人は洋服と格闘していた。
もちろん洋服が襲って来たわけではない。
ママこと、女性の規格外とも言える豊満なバストとヒップにマッチした服が、どうしても見当たらなかったのだ。
しかたなく冒険者は、一番近いサイズの服のサイズを選び、それをなんとか女性に着させようとしていた。
とにかく横乳と鼠径部は目のやり場に困る。本来そういった部位が、彼氏や夫しか見ることが許されない場所なのだ。それを公然の場で、これでもかと見せびらかしながら歩くのはよろしくない。あらぬ誤解を招くばかりか、 もれなくトラブルも招くであろう。 それも、恐ろしい吸引力で……。
出る杭は打たれる。淫部は隠して歩くべし。冒険者は先人の知恵にあやかって、なんとか女性に服を着せようとしていた。
「くそ! 入らねぇ! なんでウェストはコーラの瓶みたいにくびれているのに、尻と乳は無駄にデカイんだ!」
「痛い! 痛いよ❤ もっと優しく! ソフトに、ゆっくり動かして❤」
「いちいち語尾に
「イッてない❤ 全然イッてないんだからね!! 試着室を出た後に、店員から軽蔑の眼差しを向けられて、頬を赤らめる息子の表情を見て興奮している、ふしだらなママじゃないんだからね!!」
「やっぱわざとじゃねぇか! このクソアマぁ!!」
冒険者は少し腹を立ててしまい、思わず手に力が入ってしまう。
ビリッ
服の繊維が破ける、聞こえちゃいけない音が試着室に響き渡った。
◆
服屋から出た冒険者は、『なんでこんなことに……』といった顔で、ため息を吐く。
背負ったリュックの中に、あの破けた服があるのだ。本来買わなくてもいいものを、買い取るハメになったのだ。
「自業自得とはいえ、この破けたプリーストの服どうするかな。捨てるにはもったいないし……直して売るか? でもプリーストってレア職だよな? そうそう都合よく、買い取ってくれる人が現われるわけないよな~」
「じゃあママがプリーストになって、えいちゃんのこと献身的にサポートしてあげる❤」
「いつからレア職にジェブチェンジしたんだよお前は! そもそもあんたのジョブなんだよ。知らないんだけど」
「私のジョブ? ママよ」
「
「家を守るのも母親の務め。とくに料理は戦場よ。シーフのような俊敏な動きで同時並行して料理を作り、プリーストのような香辛料という神を崇拝しつつ、娼婦のように胃袋を愛撫するの。 ね? ママも立派なジョブでしょ!」
「なに上手いこと言った風な感じだしてんだよムカつくな! あと胸張ってドヤ顔すんな。ウケてねぇから失敗してるから。滑ってんだよ!つまんねぇんだよ!」
「反抗期? ねぇ反抗期なの? ママ、思春期の息子の部屋を漁って、エッチな性的代用物を机の上に置く残忍無慈悲なママじゃないわ。見て見ぬふりができる、超有能トップ・オブ・ママなの。キング・オブ。ママなの。ママ・ザ・ママなのよ。だからそんな酷いこと言わないで。見捨てないで……ね?」
「それさっき聞いたから!! つーかキング・オブ・ママってなんだよ! そこはクイーンだろ! なんでキングなんだよ!!なんで王位継承してんだよあんたは!!」
「だってママ、父親も兼任してるからキングでもいいかな~って思ったの。だめ?」
「勝手に兼任すんな!! 第一だな――」
冒険者が恐ろしい早口でツッコミを入れていると、誰かとぶつかる。それは冒険者の背の半分もない、幼い少年だった。
「おっと?!」
少年は急いでいたのだろう。謝りもせず、そのまま走り去ってしまった。
「まったくスミマセンの一言も言わねぇのかよ……――まさか!」
冒険者は急いで路銀の入った腰袋を確認する。彼の嫌な予感は的中していた。腰に下げていた袋ごと、路銀をすられたのだ。
「やられた! あのガキぃ!!」
冒険者は「先に宿に戻ってろ! 俺は路銀を取り戻す!!」と告げると、少年の後を追った。
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