第17話『神々の兵器』
戦いを見守っていたハルトとクロエ。カームの善戦っぷりは、二人の脳内から『逃げる』の文字を消し去るほど、力強く、頼もしいものだった。
思わずハルトは感嘆の想いで呟く。
「まさかカームがここまで強いなんて……」
それを聞いたクロエは、懐かしさと共に笑みを浮かべ、こう言った。彼女もまた、邂逅時に同じ思いを抱いたからだ。
「私も彼女に助けられた時、そう思いました。なにせ魔導師の少女が放つ火球を見切って躱し、少女たちを次々に殴り飛ばしていったのです。――あの雄々しき勇姿。今でも鮮明に目に焼き付いています」
「魔導師相手に接近戦かよ。命知らずだな」
「後で『なぜ接近戦を?』って訊いたら。なんて言ったと思います?」
「なんて?」
「『手斧をどっかに落として、拳しか武器がなかった』――ですって。笑いながら。エルフの私に……まるで、人間の子供に話しかけるように」
「前から思っていたけど、もしかして彼女は、種族の違いで差別をしない人なの?」
「詳しい事情は……。少なくとも今まで、彼女や、彼女の仲間たちに虐げられたことはありません……不思議と。なぜ平等に扱ってくれるのか、その理由までは怖くて訊けなかった。今の関係が……壊れてしまいそうで――」
「そうか……。この世界には珍しい人達だ。普通はエルフを見つけたら、迫害や差別するのが一般的なのに。それをせず、分け隔てなく接するなんて……」
クロエは見逃さなかった。ハルトが不意に漏らしてしまった、ある単語を――。
「この世界……ですか。その口調。まるで他の世界から来たような口ぶりですね」
「え? あ、いや――今のは言葉の綾だ。気にしないで」
ハルトは弁明しながらクロエを見る。そして彼はその場で硬直した。
なぜなら彼女の手に、異世界の武器――拳銃が握られていたのだ。
「それは……俺の銃?!」
「あなたを助けた時、懐に忍ばせていたコレが目に入りました。カームに気づかれないよう、今まで隠し持っていたの」
「……返してくれ。それはとても危ないものだ。この世界の住人が手にして良いものではない」
「返してほしければ答えてください。あなたは向こう側の世界からの迷い込んだ、来訪者なのですか?」
「向こう側の世界……か。 本当は他言無用だが、あえて腹を割って話そう。その通りだ。少なくとも俺はこの世界の人間ではない」
「どっやってここに? どこの国の人間?」
「答えるのはいいが、君の言う向こうの国の事情を話しても、それが事実か分からないだろ? もしかしたら俺が、君に嘘を言ってるかもしれないぞ」
「いいから答えて。それが事実か嘘かは私が判断します」
「……わかった。俺はこの世界の人間たちによって召喚されたんだ。つまり俗に言う勇者ってやつだ。産まれも育ちも日本国の出身。つまり日本人だ。正確には大和の民って言ったほうがいいかな」
「大和の……民? じゃあ神州から来た皇國の人?!」
「神州とはずいぶんと古い言い回しが出てきたものだ。たしかにまぁ、そうだけど」
「これは神のお導きだというの? こんな奇跡があるなんて」
「奇跡? 何を言って――」
「お願い! 神機を動かして!!」
「え? ちょっと待って、神機?」
「あなたの世界から持ち込まれた神の兵器よ!! あれが人間の手に渡れば、再び災いを齎すことになる。ベルカや列強国の手に渡る前に! あれを湖に沈めないと!!」
「待ってくれ! 神機なんて知らない!! そもそも俺は勇者だけど、無能力者なんだ! 分かるだろ? 俺から一切魔力が出ていないことを!」
しかしクロエは断言する。あなたなら見ただけで使える――と。
「神州の民なら使えます! あなたも元いた世界で、必ずや神機を目にしたことがあるはずだから! お願い! 私と一緒に、神機が隠してある洞窟まで来て!!」
しかしそれどころではなくなる。カームの悲鳴が川辺に響いたのだ。それは状況悪化を物語る、序章に過ぎなかった。
「ぐあぁあぁあ?!!」
その悲鳴にハルトとクロエがほぼ同時にその方向を見る。
彼らの目に映ったものは、今まさにカームが攻撃を受け、吹き飛ばされる瞬間だった。
そしてそれを行ったのは、少年たちではない。
豊満なバストに魅力的なヒップ。男の情欲の具現化とも言えるグラマラスな女性――。
そう。ハルトの保護者を自称し、自らをママと名乗る――彼女だった。
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