第16話『カーム VS 義勇旅団』


 魔導師の少女が、強襲の合図を叫ぶ。


 そして男たちは一斉に、カームへと襲い掛かった。



 三 対 一 どう見ても少年たちが優勢だった。



 最初に攻撃を行ったのはシールダーだ。重厚な鎧に身を包んだ、巨漢の少年――年齢に似つかわしくない彼が突貫し、巨大な盾がカームに向け、勢い良く突き出す。シールドバッシュである。



「喰らえぇ!!!」



 カームは後方へと飛び退き、盾による殴打をギリギリのところで躱す。しかしすべては、少年たちのシナリオ通りだった。


 それを見た少年たちの一人が、『してやったり』と叫ぶ。



「バカな女だ!! まんまと引っかかったぜ!!」



 カームが降り立った刹那、地面がエメラルド色に輝き始める。



 カームの足元で魔法陣が展開し、その中から無数の鎖が現われた。魔力によって構成された鎖が、カームを雁字搦めにする。


 シールドバッシュはあくまで囮。すべてはこのトラップ魔法陣へ陽動するための布石だった。



 身動きのできなくなったカーム。だが彼女の顔色に『追い込まれた』焦燥感は微塵もなかった。それどころか少年たち同様、『してやったり』という顔だった。




「ガキのくせに拘束プレイがお好きなのかい? 若いうちからこんな変態プレイに目覚めっちゃって。ほんと、しょうもない子たちだよ」




 カームはそう言いながら、拘束魔法を容易く引き千切った。


 拘束魔法はオークやドラゴン、イヴィルリザードでさえその足を止める程の、並々ならぬ拘束力を持つ。それを魔法も使えない女山賊が、いとも簡単に無力化したのだ。



 この非現実的な光景に、少年たちは目を疑う他ない。



 唖然とする少年たちを嘲笑うかのように、カームは腰に下げていた光る札を見せる。手にした札をヒラヒラと揺らしながら、なにが起こったのかを説明する。



「カラスの仮面被った変態煙野郎から、この紋符を買ったんだ。あらゆる魔法を解呪する、文字通り魔法の呪符だそうだ。格好からして胡散臭い野郎だったから、どうやらモノホンの紳士様らしい」



 少年たちは、その男に心当たりがあった。近年、都市で人さらいを行っている怪人だ。



「カラスの仮面?! ヤツとぐるなのか!!」


「おいおいよしてくれ! 妙な機械くっつけて、たまに変な煙……あーと蒸気っていうのかい? 白い煙を吐く得体の知れない男だよ? そもそもうちは男子禁制。娼年以外お断りさ」


「知るか! なら無理やり口を割らせてやるよ! ヤツの居場所をなぁ!!」



 少年たちは、カームを捕縛する案を早々に放棄。そして武器を手に斬りかかる。多少傷つけてでも、男の居場所を吐かせるつもりだった。





 カームは魔法が使えない。しかしそれを補うほどの経験があった。




 エルフが娼婦業界に雪崩込み、自身の需要を奪われ、高級娼婦を解雇されたあの日。あの時から彼女は、不屈の精神でアウトローな世界を生き抜いて来た。




 自分のニーズを奪ったエルフを恨んではいない。――むしろ、こうなるのは薄々予期していた。何百年も老いることなく、男を満足させられる女。そんな神のような存在相手に、老いの早い人間が勝てるはずがない。




 故にカームは、娼婦仲間を引き連れ、この女山賊という道を選んだ。裏稼業をよく知るからこそ、この道が妥当であり、我が身に合ったものと判断したのだ。



 

 かつて自分を雇い、味わった者達。しかしエルフという新しいおもちゃと引き換えに、なんの躊躇いもなく棄てた。古いおもちゃを棄てるかのように……。




――だからこそ、カームはそんな彼らの積み荷を襲う。職を一方的に解雇され、用済みと棄てられた憤り。その想いを知らしめるために――。





 その努力と執念はカームの身を守る鎧となった。






 現に、鍛え抜かれた彼女の体は、その機敏な動きで少年たちを翻弄させ、こうして対等に渡り合っている。それこそが確かな証と言えよう。


 少年たちは噂以上の強さに驚く。魔法を無力化されたのもショッキングだったが、まさか、こうして近接戦でも引けを取るとは思ってもみなかったのだ。



 数の差をものともせず、カームはハンドアックス一本で戦い抜く。少年たち気迫負けし、徐々に動きも鈍っていく。 





「強ぇ! なんだこのアマ?!」



「年上の女性になんて口の利き方だい! そんなんじゃおばさん一人口説けないよ!!」



「うるせぇクソババぁああああ!!!」





 戦況は少年たちに不利。それは端から見ていた魔導師の少女にも、そう見えていた。彼女は歯痒さと共に舌打ちし、少年たちを役立たずと罵った。



「使えないわね。結局役に立ったのは下半身だけじゃない! いくらベッドの上で実力を発揮できても、肝心の戦闘で役に立たないなんて意味ないじゃない!! こんなことなら! 酒場にいた、熟練おっさん連中を勧誘するんだった!」



 過去の自分を嘆いても、この現状は一切良くならない。団長として今ある手駒で、なんとか状況を打開するしかないのだ。


 魔導師の少女は切り札を投入する――手に入れたばかりの、とっておきの切り札を。彼女は横にいる人物に増援の命令を下す。その力を持って、女山賊カームをねじ伏せろと指示を出したのだ。




「ゆけ! あの女に目に物見せてやるのよ!!」




 その人物は川を飛び越え、少年たちに加戦する。



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