第13話『肉欲の宴』(全年齢版)




――同時刻 山賊のアジト




 ハルトは立ち上がり、急いでテントを出ようとする。



「彼女を一人にしてはおけない! 早くしないと、大変なことになるぞ!!」



「待って! 外は―――」



 エルフの少女が静止の声を叫ぶ。しかしハルトの脳裏には『女性を助ける』という目的しか映っていなかった。


 そしてテントの出口に下げられた垂れ幕を掻き分け、外の光景を目の当たりにする。



「――なに?!」



 テントから顔を出したハルト――そして彼は、目の前に広がる光景に愕然としてしまう。



 異様なる熱気。辛うじて松明の灯りや焚き火に照らされ、暗闇の中でなにかが蠢いているのが確認できる。



 甘い吐息に嬌声。この2つが濃厚に交わり合い、快楽の堝が形成されていた。



 最初、ハルトがそれがなにか分からなかった。しかし目を細め、注意深く見ることで外で行われている行為がなんなのかを理解する。



――いや、薄々はこうなると思っていた。女山賊がキャラバンを襲撃し、積み荷が娼年たちで満たされていた時点で、察していたのだ。


 相手は高値で取引される美少年。女性の欲望を掻き立てるそれが隣にいて、理性を保てる者はいないだろう。生物としての欲求の根幹。それが本能を呼び覚まし、この宴を構成したのだ。




 ハルトの脳裏にある言葉が過る。




『遺伝子は、自分の子孫を多く残すことのみを考える』




 イギリスの進化生物学者であり、動物行動学者である リチャード・ドーキンスの言葉だ。目の前の宴は、まさにその遺伝子に触発された女性による、女性が生物の本能を悦しむための宴だった。



 理性をかなぐり捨てた美獣たちが、互いに布下に隠し持っていた欲望の果実を曝け出し、それに貪り、喰らいついている……。



 女の楽園。――いや、男にとってもそこは楽園だった。


 その、あまりに現実離れした光景に、ハルトはゴクリと息を呑む。そして自らに科したはずの使命を忘れ、テントの中へと後ずさりしてしまう。



 その時、背中に柔らかいムニュっとしたものが当たる。そして突如視界を遮られ、こう問われたのだ。



「だ~れだ?」


「?!!」



 ハルトは顔を覆った何者かの手を振り払うと、急いで後ろを振り向く。



 「だ、誰だ?!」



 ハルトの目の前に、見たことのない女性が立っていた。筋肉質な女性――強さも兼ね揃えつつも、決して女であることを忘れていない――その麗しき美貌。神話になぞらえるなら、男勝りな戦巫女ヴァルキリー。この世界のジョブになぞらえるなら、アマゾネスそのものだった。



 女性はニカッと笑みを浮かべ、自らの名を名乗る。




「あたいかい? あたいの名はカーム。この山賊を仕切っている長だ。なんだいクロエ、まだこの男とやってないのかい? あたいらの掟、まさか忘れたわけじゃないよね?」




 カームの後ろにいたクロエは、弱々しく、申し訳なさそうな声で謝る。




「あ、えっと……申し訳ありません」




「『獲物を狩った者が、まず最初にその獲物を口にできる』。あんたが悦しんでくれないと、あたいを含めたみんなが、その男に手を出せないんだ。ほら、外を見たろ? ぼちぼち人員も不足してきた頃だ。この男にも、そろそろ働いてもらわないといけないんだよ。さぁクロエ、ここで女を見せな!!」




 クロエはカームに背中を押され、恥ずかしそうに服を脱ぎ始めた。




「おい嘘だろ……まさか!」




 すべてを察したハルトは、テントから逃げ出そうとする。


 しかし逃げようとするハルトを、カームが羽交い締めにして拘束した。



「ちょっ!! ちょっと!!」



「なんだい? クロエが一肌脱ごうっていうんだよ? あんな上物の美少女に、恥をかかせるつもりかい?」


「いや! そういうわけじゃ――」



「じゃあ彼女は魅力的じゃない? すると、あんた相当贅沢な暮らししてきたんだね~。よく目を凝らして見てみな。あんな上玉のエルフ、貴族ですら、そうそう味わえるもんじゃないよ」



「違う! 彼女とはあったばかりなのに! こ、こんな事できない!!」



「こんなご時世になに言ってんだい。男は希少なんだ。ここでしっかり働いてくれないと、この世から男が消えちまうよ!!」



 ハルトは抗おうにも、カームに勝てるはずがなかった。彼女の体はまるで鋼のようにビクともせず、為す術がなかったのだ。



 そうこうしているうちに、クロエはハルトの前に跪き、ズボンに手をかける。そして脱がそうとした刹那――、悲劇が起こった。



「うぷ……」



 クロエが急にえずき、体を震わせたのだ。


 異変に気付いたハルトが、彼女に問いかける。



「え? どうしたの?」



「いえ、なんでもないです大丈夫ですから おろろろろろろろろ!!!!!」




 まさにレインボーな悲劇だった。こういった行為に慣れていないクロエが嘔吐してしまい、ハルトの下半身を文字通り大惨事にしてしまったのだ。




 ハルトとカームはここまで息が合うのかと思うくらい、息ピッタリに叫んだ。





「「うわあああああああああああ!!!!!!!」」



 


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