(ほぼ)300字小説集

オカワダアキナ

アンドロイドは暗室作業の夢を見るか?

「すごい、画期的」

 今年15になる甥が、僕のカメラを見て感激している。

「これならネットに流出しないし、フタを開けてフィルムを引っぱれば、完全に消せるんだね?」

 2030年。息をするように端末はタップされ、何気ない瞬間は即時にクラウド保存される。家族や友人、見知らぬ人の、善意(と好奇と監視)のレンズに囲まれ、記憶は永遠に電子の海を彷徨う。銀塩カメラは逆説的に自由を獲得したらしい。

 僕はちょっと得意になってこう言った。

「もし現像した思い出が憎たらしくなったら、火にくべてしまえばいいのさ」

 けれども彼は首を傾げた。ああそうか。この町はとっくに花火も煙草も禁止で、家はオール電化。彼は炎に触れたことがないのだ。


(お題:写真)

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