リンクの跡地

 ざりりと鳴った。手すりにつかまり立ちするのが精一杯で、かかとのぎざぎざで氷を削っていた。すいすい何周でも滑る兄がうらやましい。手をつないでほしいとは、言えなかった。

 兄と父とは、別々に暮らしている。時たま一緒に遊ぶ。久しぶりに会った父は、ベンチで居眠りしていた。

 穴を掘ってはいけないよ、あとから兄にたしなめられた。ずいぶん前に買ってもらった色違いの手袋を、兄はなくしてしまったらしい。


 ストーブの脇で、自販機のカップ麺をすすったこと。はねたしずくがストーブでジュッと蒸発したこと。貸し靴が重たかったこと。帰ったら、母に話そうと思った。


 二十年前のことです。スケート場は、つぶれました。兄は遠くの町にいます。



(お題:氷)

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