とおやま
祖父の晩酌のお供はテレビの時代劇だが、いつも途中で寝てしまう。
「大丈夫、主役は死なない」
たしかにチャンバラ劇はいつも同じ結末で、遊び人の正体がおぶぎょうさまだというのは明白だ。でもよそのうちだから勝手にチャンネルを変えるのはためらわれ、彫り物の桜をひとりで眺めた。祖父のいびきは劇伴だった。
子供の頃、母が夜勤の日は祖父の家に泊まったのだ。これにて一件落着。肌に舞う桜吹雪はけっして散らなかった。
病室の窓からは遠くの桜並木が見渡せる。蕾はふくれ、雲は低い。祖父はほとんどベッドから起き上がれないので、たぶん開花を知らない。
今もまた、祖父が見ない桜を見るのは僕の役目だろう。花曇りの布団が寝息を吸いとる。
(お題:桜)
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