やわらかい芯

 黄色の色鉛筆が落ちていた。短くちびて、芯もまるい。隣家の子どものものだろう。幼稚園に通うかれは、バナナとか星とかひよことか、黄色いものをたくさん描いたのだ。


「夢の中で息子がいたよ。顔は似てない。出産って相当痛かったはずなのに、いつ産んだか覚えていなくてびっくりした」

 姉が言う。我々、実家から遠く離れて二人で暮らしている。それぞれ仕事や恋人を削り(折り)し、買ったバナナを黒くしている。

「でもすぐに思い直したよ。これから先の人生を思えば、もっと痛くて大変なことがたくさんあるんだろうなって」

 父親は?

「いなかったな」


 翌日、色鉛筆は持ち主のところへ帰ったらしかった。痛くて大変で素敵な黄色のために、祈った。



(お題:色)

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