いとしいゲリラよ
昇降口で途方に暮れていたら先生が貸してくれたのだ。折りたたみ傘は夜の色をしていた。すべての合唱曲を口パクで済ませていたことを先生は知っていたろうか。カロ・ミオ・ベン。返却は歌ってからにすべきだろう。だから返さないまま卒業したのは仕方ない。
さて、傘を持たない男がうちへ転がり込んだ。かれはいろいろの所有を拒む。金とか家族とか約束とか。外で降られたらどうするの?
「コンビニでビニ傘買う」
そうしていつのまにかどこかでなくしてくるから、町はかれのばらまいた傘であふれている。
「これあげる」
借りたままの夜色を与えた。どうか落っことしてきてくれ。先生、拾ってくれ。今ならなんだって歌う。
夕立はゲリラに名を変えた。
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「カロ・ミオ・ベン」(Caro mio ben)は、「いとしいひとよ」という題の歌です。
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