笹舟
京王閣競輪場へは舟で渡れる。川沿いの駐車場から橋は遠い、貸しボート屋がレース日のみおこなう「渡し」だ。勝負師たちを十人ばかり乗せ、舟はだらだら引き波をつくった。みな真剣に予想紙を睨み、川面の星くずに目もくれない。叔父は赤ペンを耳に挟み頬杖をついた。
舟に乗りたいからとついて行く。売店の牛すじ煮込みは真っ黒で好き。生きていた姿も牛飼いのようすも想像するのは難しい。レースのまくりは騒がしく、肝心な言葉はきこえまい。
「ヒモ」
ボート屋側は右岸と呼ばれる。多摩川には前後左右があったのか。前を見ることは海へ出てゆくことらしい。叔父は左右を行き来してばかり、小銭をあらゆる紙片に変えてしまう。織姫かもしれない。
了
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競輪でいう「ヒモ」とは、二着の選手のことです。
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