常緑

 もしも神さまがいるのなら、おれは骨折なんかしなかった。修学旅行前夜、友だちと悪ふざけてしていたら階段で足を滑らせてしまった。

「神さまを試してはいけないよ」

 牧師先生はやんわりたしなめた。校内のチャペルはいつもに増して静かだ。みんなが帰ってくるまでおれはここで自習せねばならない。庭では蕾が黄色く沈黙している。低い木だ。

「やっぱり神さまなんていないんですか」

「そうじゃないよ」

 この人は寛容すぎるのだ。酒は飲むし、初詣は行くし、おれの母親の葬式で焼香もした。

「存在は信じても、頼りにはしてないんだ」

 だからかえって試されているような気になった。優しいことはときどき苦しい。

 庭木は柊南天といい、ぶどうみたいなにおいだ。


(300字)

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