都合の良い風化

 おまえがおれを山に捨てて行ったので、律儀に立ち尽くしていたのさ、千年。そうして風に曝され、おれは土にされてしまった。


「もう連絡してこないで」「荷物は全部送るから」「お金は返さなくていい」「合鍵を返して」「返してくれないなら引っ越します」


 鳥も虫もいない。千年、沈黙。赤い山肌を風が殴りかかる。

 おれの体は崩れて、土。お前の声、顔、匂い、まだくっきり覚えているのに、おれの体は散らばった。意識より先に体は土にされて、ばらばら。


「さよならバイバイ元気でね」


 午後の喫茶店、おまえのすっきりした顔。ああ、おまえの山では怒りが先に風化した。

 もっと崩れて、風に混じって飛んでゆけたら。おまえの髪を撫でて許しを請うよ。



(お題:風)

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