泣かないくちばし

 アオバトという名前だけれど実際には緑と黄色の羽をしていて、青いのはくちばしだけ。かれらは夏、海辺にやってきて海水を飲む。波間に浮かんでオアオオアオと鳴いて。

「なんか悲しげな鳴き声」

 海水からミネラルを摂取しているのではといわれているが、はっきりしたことはわかっていない。高い波に溺れて死んでしまうこともあるらしい。決死の覚悟で海水を飲む。

「どうしてわざわざ海?」

 それはアオバトのことかな、わたしたちのことかな。

「海水を飲むなんて、体のなかに涙をためこむみたい」

 満潮を待たず、別れ話は明確に済んだ。だから体に涙はないし、わたしはそれを飲んで引き下がったわけではない。体のどこも青くない。ビールが飲みたい。


(お題:のむ)

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