LとR

 イヤホン半分こして歩こうよ。

 と、差し出されたL側をねじこんで、腰をかがめて歩いた。小さなきみに高さを合わせてね。

 この歌、元々そうなのか録音の失敗か、Lにはボーカルが入ってないな。流れてくるのは伴奏ばかり。

「声がハスキーで好きなんだ」

 きみの声はイヤホンのため上ずって、それでも遠い。


 センター街は誰かの汗や香水、ケバブ屋の煙も混ざって、まだら。音楽がにおいを強くして、異国めく。


「うん、歌詞がいい」

 聞こえない声を想像して言ってみる。あるいは息をするように嘘をついている。白いコードが抜けないよう、そっと歩く僕らはエトランゼ?


 目が合ったケバブ屋がニヤリと笑うから、

「ちょっと座ろう」

 声が聞きたくなったんだ。



(お題:声)

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