地金が出る夜、わたしという卑金属

「地金で勝負しなよ、そのほうがずっといい」

 バッタリ出くわした課長にそう言われたのだ。

 都営新宿線岩本町駅、地上に出てすぐ、川べりの喫煙スペース。

「タバコ吸うんだね。いつもお人形みたいにすましてるから知らなかった」

 会社の帰り、いつもここで一服する。誰とも分かち合いたくなんてない夜と川。

「メッキのはげた顔もいいじゃない。人間っぽい」

 そう言う課長の無垢が、灰をこぼさせ、アスファルトに舞う。


 メッキは地金の装飾のため。腐食を防ぐため。あらゆる摩擦から守るため。


 川は澱んで底は見えない。砂やへどろや幾千のゴミ、きっと吸い殻も堆積して。課長、この街の地肌はみんな何かに覆われています。私、その平和を愛しています。



(お題:地)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る