あのひとのママに会うためではないよ

 ちゃんと乱暴に書けたし、いっそ興奮した。歌で有名なこんなことをまさか自分がやるとは。赤いかたまりはみるみる減って大きな二文字になった。

 バカ。

 我ながらきざだ。でもこんな滑稽な幕切れはそれらしく演出すべきだろう。つまり浮気者は許さない。赤い字の走るそれと対面する。せいせいした顔の自分と向かい合う。

 はずだったのに、みっともないくらい泣きっ面。左右対称の私は正直すぎる。歌のようにかわいらしくはなれないし追いかけてほしくもない。ばかは私もだ。でもそれがわかっているだけあんたよりまし。

 元気でね。つけくわえた四文字はたぶん自分に向けた。力をこめすぎてぼきんと折れた。ゴミ箱に放る。色のないくちびるで出て行く。



(お題:鏡) 

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