近視の満月

 近視で乱視だから世界の輪郭はあやふやだ。タバコを買うにも難儀。商品名ではだめだ、番号が必要だ。

「月がとっても青いから」

 歌いながら歩くきみに青くないよと言うと、そういう歌詞なのだと笑われた。煙は細い。

「あれって満月?」

 月だってつねに朧。細い月なら分身し、満月は一晩で終わらない。けれどこんな時間に沈みきらずにいるのだからきっと欠けている。

「好きだよ」

 郷里に帰ることが決まってから殊更にそう言うきみのずるさがわたしは好きだ。会えなくなったらこんな日々をきみは忘れてしまうだろう。きみの輪郭は刻々と変化する。

「満月だね」

 わたしたちにとっては。お祈りみたいに答えてみる。

 新しい眼鏡を買ってきみを捕まえにいく。



(お題:月)

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