ひどく誠実な(つもりの)父親

 遊歩道から見下ろした海は赤潮で澱んでいた。

「気味が悪い」

 娘の言葉にぎくりとする。「君が悪い」と言われたように空耳したためだ。

「赤潮だよ。プランクトンでね、夜になると光るんだ」

 夜光虫と呼ばれる彼らは大量発生すると、ぶつかり合って青白く発光する。夜、波は星をまいたみたいに瞬く。

 見たい見たいと娘がねだるのを、また今度とごまかした。夜まではいられない。けれど今度会うときは赤潮の季節ではないだろう。いつからか、僕はひどい嘘つきになってしまった。鉄錆色の海は低く唸って生臭い。

 あと30分。別れた妻が娘を迎えに来る。

「こうやって海が濁るから、夜光虫が見られるんだよ」

 弁解みたいに言う僕を、娘がぽかんと見上げた。


(お題:光)

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