後期8限目 SF論 70年代以降のSF映画

 はい、SF論です。卿は70年代から80年代以降のSF映画を洋画中心にざっと見てから、日本SFの歴史に移ろうと思います。

 

 70年代になると、そろそろ現在でも続いている有名なSF映画シリーズが姿を見せ始めます。特に後半、77年にジョージ・ルーカス『スター・ウォーズ』が公開されると一気にSFブームがわき起こり、日本をも巻き込んで全世界に広まりました。同年にスティーブン・スピルバーグ『未知との遭遇』、79年『スタートレック』(1966年放映開始のアメリカテレビドラマシリーズ映画化)、79年リドリー・スコット『エイリアン』と、SF映画と言えば、と聞かれてすぐに出てくるような有名タイトルが並びはじめます。

 なおルーカスはほんとは『フラッシュ・ゴードン』という、新聞の連載マンガだったスペースオペラ映画をリメイクしたかったようですが、権利がなかったため手を出せず、自前で考えた『スター・ウォーズ』を作ったんだとか。『フラッシュ・ゴードン』のほうはスターウォーズに遅れること三年の1980年に制作されましたが、まあちょっとさすがにスターウォーズにはかなわなかったようっすね。私はわりと好きですが。

 この系統でちょっと今日の紹介時期からは外れますが、1968年ロジェ・ヴァディムのセクシーなスペースオペラ『バーバレラ』は、とにかく陽気なエロティシズムが全編に溢れるお色気スペオペとして佳品。色っぽいバービー人形みたいにくるくるお着替えしながら活躍するジェーン・フォンダが実にかわいく色っぽいです。


 80年代に入るとさらに多くのSF映画が作られます。1982年には少年と宇宙人の交流を描いたスピルバーグの『E.T』、リドリー・スコット『ブレードランナー』、『トロン』、ジョン・カーペンター『遊星からの物体X』の三本。このうち『トロン』は、コンピュータ内でのプログラム同士の攻防を擬人化して描き、映画ではじめて本格的なコンピューターグラフィックスを使用した作品として特筆されます。むろん、まだまだ原始的なワイヤーフレーム構造と単純なオブジェクトマッピングでしたが、展開される未来的なビジュアルはまったく新しいものとして客の目に映りました。


 1984年にはアーノルド・シュワルツェネッガーをスターに押し上げたジェームズ・キャメロン『ターミネーター』、85年にはロバート・ゼメキス『バック・トゥ・ザ・フューチャー』が公開されます。どちらもシリーズ化され、『ターミネーター』は2015年、『ターミネーター:再起動』としてリブート作品が制作されました。

 87年にはアメリカ映画の著名モンスターのひとりとして定着した『プレデター』が公開。ターミネーターでマッチョ役が板についたシュワルツェネッガーが戦った体を不可視化させる宇宙の戦闘民族はその後、二作の続編ののち、『エイリアンVSプレデター』(2004、2007)という、エイリアンシリーズとのクロスオーバー作品も作られています。

 同じ87年には企業によってサイボーグ化された警官の復讐を描くポール・バーホーベン『ロボコップ』も公開。これもまたシリーズ化されました。


 この時期にはテリー・ギリアムによる未来社会のディストピアを描いた1985年『未来世紀ブラジル』、ハル・クレメントの小説『二十億の針』を原作にし、宇宙から逃亡してきた凶悪な精神生命体を、同じく精神生命体の捜査官がそれぞれ人間の体を借りて追跡するという1987年『ヒドゥン』が、著名な作品としてあげられます。

 特異な内臓的・生理的なグロテスク描写を特徴とするデヴィッド・クローネンバーグは、超能力者同士の闘争を描いた1980年『スキャナーズ』で頭角を現し、83年『ヴィデオドローム』でカルト的人気を得て、さらにスティーヴン・キング原作『デッドゾーン』、86年『ザ・フライ』を経て人気監督となりました。


 また、1979年の『マッドマックス』(これはSF要素のない普通のアクション映画でした)のヒットを受けた1981年『マッドマックス2』は舞台を核戦争後の文明が崩壊した世界に移し、荒れた砂漠で石油や食糧を奪い合う荒涼とした世界観とハードな暴力描写で、その後『北斗の拳』をはじめ、さまざまなSF作品や創作のイメージソースとなりました。2015年には『マッドマックス/怒りのデス・ロード』として三作目が制作されて話題になりました。


 90年代になると、シリーズ続編が多くなってきてオリジナル作が減ってくるのがちょっと困るのですが、1993年のスティーブン・スピルバーグ『ジュラシック・パーク』、1996年ローランド・エメリッヒ『インデペンデンス・デイ』。

 また同年ティム・バートン『マーズ・アタック!』、1997年『メン・イン・ブラック』、ポール・バーホーベン『スターシップ・トゥルーパーズ』、リュック・ベッソン『フィフス・エレメント』。

 1998年『アルマゲドン』、ローランド・エメリッヒ『GODZILLA』、1999年クリス・コロンバス『アンドリューNDR114』、デヴィッド・クローネンバーグ『イグジステンス』。

 『ギャラクシー・クエスト』、『アイアン・ジャイアント』。


 しかし99年のもっとも大きな洋画SFは、95年公開の日本のアニメーション映画、押井守『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』に大きく影響を受けたウォシャウスキー兄弟『マトリックス』の登場でしょう。「バレット・タイム」と呼ばれる、縦断の動く速度をコマ送りで見せるカメラ回しはその後ブームになり、あちこちで見られることになりました。

 スターウォーズ・シリーズのダース・ベーダーの過去を扱ったエピソード1『スターウォーズ/ファントム・メナス』もこの年です。


 2000年代に入ると、マーベル・コミックスの映画化第一作『X-メン』が大ヒットし、シリーズ化されました。マーベルのほかのヒーローも多く映画化されており、『ブレイド』、『スパイダーマン』、『アイアンマン』、『マイティ・ソー』など、多くのシリーズがあります。これらのヒーローのユニバースを一つにまとめ、さまざまなヒーローを一堂に会させたシリーズ『アベンジャーズ』も制作されています。

 対するDCコミック側では、スーパーマンはすでに1950年代に最初の映画化がなされており、その後も何回かのリメイクやシリーズがありますし、バットマンもティム・バートンによる映画化『バットマン』『バットマン・リターンズ』(1989年)や(さらに二作ありますが正直そっちはどうでもよろしい)、さらにクリストファー・ノーランによる再映画化三部作〈ダークナイト・トリロジー〉(2008年)が公開。

 その後二者はスーパーマンのリメイク『マン・オブ・スティール』の続編『バットマン vs スーパーマン』で合流し、マーベルの『アベンジャーズ』に対抗するヒーロー集団と言っていい『ジャスティスリーグ』が制作されて、公開予定です。


 それ以外では2009年ジェームズ・キャメロン『アバター』、ニール・ブロムカンプ『第九地区』、2013年ギレルモ・デル・トロ『パシフィック・リム』、2014年『ベイマックス』、クリストファー・ノーラン『インターステラー』、2015年リドリー・スコット『オデッセイ』、2016年『デッドプール』、2017年ドゥニ・ヴィルヌーヴ『メッセージ』。

 シリーズとかリブート作を外すとこんな所でしょうかねえ。


 まあこのあたりの作品はたぶん今でも時々地上波やBSで放映したりしますし、みなさんもわりと見る機会は多いと思いますが、このうちからアニメーションの隠れた名作『アイアン・ジャイアント』と、悲しいSFオタクの夢がなんと叶ってしまう『ギャラクシー・クエスト』を見てもらおうと思います。

 


 ちょっと念のため日本SFの歴史の初期にも触れておきましょうかね。

 第二次世界大戦前、いちおう日本にもSFはありました。まあさいえんす・ふぃくしょんとかいう横文字ではなく『科学冒険小説』とかいわれてましたが。

 押川春浪はヴィクトル・ユゴーの影響を受けて軍事科学小説『海底軍艦』を執筆して人気を得、海外の作家であるヴェルヌやウェルズの作品も取り入れながら、たくさんの少年冒険小説を量産しました。また、春浪と並んで日本SFの祖と言われる海野十三も、横溝正史と信仰を持って科学小説・冒険小説を多く書き、『火葬国風景』『火星兵団』『十八時の音樂浴』などを遺しています。

 それ以前にもSF的な発想の作品や物語、海外作品の翻案はありましたが、内容を日本が舞台に勝手に変えたり、むりやり名前を日本人の名前にしたりとかすなりムチャというか笑えるあれやこれやで、この辺のけったいな昔の日本SFが見たい人は横田順彌『日本SFこてん古典』シリーズをごらんください……って単行本はえらい値段になってるなこれ。まあ文庫版の古本ならそんなに高くはないみたいなので興味のある人はどうぞ。私は高校のときに図書館で読みましたがめちゃくちゃ笑いました。

 

 日本のSFの本格的な夜明けは終戦後、進駐軍の米兵が持ち込んでおいていった大量のSFペーパーバックから始まりました。これら英語のペーパーバックが古書店に並び、読むものに植えていた若者たちはこれらを読んで、その中から日本SFの芽が育っていったのでした。

 海の向こうの英米でSFが黄金時代を迎えていた1950年代から60年代、日本でも着々とSFの書き手と読み手が育っていました。SF専門の同人誌『宇宙塵』が1957年創刊、そして現在も発行が続いている早川書房『S-Fマガジン』が1959年創刊と、機関誌もできあがり、1962年には、第一回日本SF大会も開催。海外のファンを手本に、日本でも着々とSFの裾野が広がっていきます。

 当初は海外作家の作品紹介が主だったものも、国内作家が育ち、やがと国内初のSF長編、今日泊亜蘭『光の塔』が誕生します。

 S-Fマガジンで公募されたハヤカワSFコンテストからは続々と新人がデビューし、小松左京(『復活の日』『エスパイ』『さよならジュピター』『果てしなき流れの果に』)、筒井康隆(『虚構船団』『バブリング創世記』『宇宙衛生博覧会』『家族八景』『時をかける少女』『パプリカ』)、半村良(『石の血脈』『産霊山秘録』『戦国自衛隊』『妖星伝』『太陽の世界』)、光瀬龍(『百億の昼と千億の夜』『喪われた都市の記録』『宇宙年代記シリーズ』『夕ばえ作戦』)、平井和正(『狼の紋章』『狼男だよ』『メガロポリスの虎』『アンドロイドお雪』『サイボーグ・ブルース』『超革命的中学生集団』)、豊田有恒(『モンゴルの残光』『退魔戦記』『タイムスリップ大戦争』『日本武尊SF神話シリーズ』)などが登場。

 ハヤカワ以外からも、眉村卓(『司政官シリーズ』『ねらわれた学園』『消滅の光輪』)、ショートショートというきわめて短い短編ジャンルで大きな作品群を遺した星新一(『ボッコちゃん』『エヌ氏の遊園地』『きまぐれロボット』)などもつづいてデビュー。国産SFはどんどん幅が広がっていきます。

 

 海外SFほ翻訳・紹介するためにかかせない翻訳家も活躍し、矢野徹、野田昌宏、浅倉久志、伊藤典夫などが自ら選んだSFをs-fマガジンなどを通して国内に紹介。SFのスタンダードを定めるとともに、すぐれたSF作品の拡散に務め、またむ平井和正や豊田有恒は当時拡大していたマンガ・劇画やアニメなどの原案・脚本などにも関与。手塚治虫『鉄腕アトム』をはじめ、SF設定の多かったマンガやアニメに関して、大きな役割を果たしました。

 

 だいたい60年代日本はこんな所かな。

 70年代以降は、それではまた次に。

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