後期7限目 2.キャラクター制作論 敵・障害となるキャラクター1

 はいそれではキャラクター制作論です。

 これまで、主人公、そしてそのパートナー、という形で、主人公とその味方側のキャラクターを作る方法とその実践を見てきました。


 しかし、主人公の味方ばかりでは物語は進みません。主人公の障害、敵対する相手、行く手に立ちふさがる者、そういった存在はストーリーを魅力的に進める上で不可欠です。


 また、こういったいわゆる『敵キャラ』は、以外に人気を得たりします。『スターウォーズ』の敵役ダースベーターや、初代ガンダムの主人公・アムロの敵として大きな存在感を放ち、続編への登場や単独の外伝、(フィクションの人物なのに)伝記まで書かれたシャア・アズナブルなど、魅力的な敵キャラは古今東西枚挙にいとまがありません。

 こういった、時に主役を食ってしまうほどに魅力のある敵キャラというものは、いったいどういうふうに作るのでしょうか?


 ここで少し注意が必要なのですが、ここで便宜的に『敵キャラ』と言っているキャラは、物語上でわかりやすく主人公と戦ったり、危害を加えてきたりするばかりのものではないということです。

 ここまでの話で、「キャラクターの変化と成長が物語でありドラマである」「キャラクター同士の関わりと関係の変化が物語でありドラマである」という話をしてきました。これらの定義はもちろん、敵キャラ、あるいは「敵対するキャラ・障害となるキャラ」についても言うことができます。

 

「パートナーとなるキャラ」との関係を進めることによって主人公キャラが成長し、自己実現を果たし、新しい自分自身の段階に踏み入っていくという過程は、もちろん、彼あるいは彼女が乗り越えるべき壁である「敵・障害となるキャラ」にも当てはまります。


 いわば、「敵・障害となるキャラ」とは、主人公が持っている「欠落」の部分へ逆に傾いてしまったキャラクターといえるかもしれません。

 主人公の陰画、影ともいえるこうした存在を、シャドウと言います。主人公は自らの影と戦い、勝利することによって、自分自身の弱さを乗り越え、成長を果たします。「敵・障害」となるキャラは、別の意味においての主人公の「影のパートナーキャラ」でもありまた「影の自分自身」でもありうるのです。


 上で例に挙げたスターウォーズのダースベーダーを考えてみましょう。

 彼ははじめ、主人公ルークに立ちふさがる強大な敵として登場します。帝国という巨大な敵の代表的な存在として、彼は幾度となくルークの前に立ちふさがります。

 ヨーダに導かれてジェダイの騎士として成長していくルークに対して、ダースベーダーは「暗黒面に墜ちたジェダイ」だということがわかります。つまり、もともとはルークと同じよき力のもとにあった存在が、道を誤り、影になってしまったものがダースベーターなのです。さらに、三部作の最後ではダースベーダーがルークの実の父親であったことが明らかになり、二人のあいだの相似と関係は、さらに強調されます。


 もし、ダースベーダーがこのような背景を持たず、単に「帝国の強い将軍」というだけのキャラクターだったらどうでしょう。彼はこれほど高い人気を得たり、深いドラマを持ったりしたでしょうか。

 その後、ダースベーダーことアナキン・スカイウォーカーについての映画が三部作として作られましたが、実を言えばあれは、私個人としては蛇足だと思っています。『スターウォーズ』は、神話的原型をもとにして作られた英雄物語であり、ダースベーダーはその中で、主人公ルークのためのシャドウであり乗り越えるべき父親として設定されたキャラクターです。それにあとから、いたずらに設定や成り行きをつけ加えるのは、ファンフィクションとしてはおもしろくても、物語全体のバランス・調和という意味から見れば余計なことだと思うのですが……


 話を戻しましょう。

 ダースベーダーの人気の秘密であるあの黒ずくめの仮面とマントもさることながら、やはり彼のキャラクターとしての悲劇性、複雑さをより観客に印象づけたのは、彼が暗黒面に墜ちたヨーダの元弟子(ルークの兄弟子)であり、なおかつ、最後にルークの父であることが明らかになった彼が、皇帝の操りに反抗して息子を守り、和解を果たして死んでいく場面があってこそでしょう。あの場面はダースベーダーにとっても名シーンでありますが、ルークにとっても、彼が自分自身のシャドウであり、かつ偉大な父であるところの相手を乗り越え、大人として立つことを許されるシーンとして、きわめて象徴的です。


 敵・障害となるキャラクターを作るためには、パートナーとなるキャラ作成の時以上に、「そのキャラクターの欠けている部分」「そのキャラクターが目指している境地」の設定が必要になります。物語の進行上、主人公の行動をさまたげる役割にある敵・障害となるキャラには、当然、主人公の目的とするところを邪魔するべき当然の理由が必要になるからです。


 主人公には自ら目指すべき目的への理由と衝動が存在しなければなりません。

 そしてそれに立ちふさがる敵・障害となるべきキャラクターにも、同じように譲ることのできない目的への理由と衝動が存在せねばなりません。

 むしろ敵・障害となるキャラクターは、もうひとりの主人公である、と考えた方がよいのかもしれません。

 主人公の主張や性格、信念がブレる、あるいはゆさぶられるのは成長の段階としてまだ見られても、壁、障害として立ちふさがる相手がブレていたり、特にこれといった目的も信念も持っていなかったりするのは興ざめですね。

 乗り越えなければならない壁が高く強固であればあるだけ、それを打ち倒し、乗り越えたときの爽快感、カタルシスは大きなものになります。


 また、敵や障害となるキャラクターが備えている信念や性質、思考、強さなどの特異さが受け手に大きな印象を残す場合もあります。

 また主人公はある意味、受け手の代理人でもあり、あまりにも常識に外れていたり悪辣だったり異形だったりさせることはできませんが、敵や障害となるキャラクターであれば、いくらでも突飛な強さや性格、設定、信念、力などをつけさせられます。

 主人公側の魅力的といえるキャラが「ギャップ」「弱点」「癖」「コンプレックス」「抜けているところ」などを持っているように、敵・障害となるキャラにもまた、同じような厚みが要求されます。主人公と同等、時には食ってしまうほどの魅力を持つキャラクターというのはそういうことです。

 優れたキャラクターとして印象に残るのは、こうした設定的な部分と、ドラマの部分、そんな圧倒的な敵がどうやって主人公たちによって乗り越えられるか、という物語の部分を、うまく融合させ得たかに依ります。


 主人公の時と同様に、ちょっと自分の好きな悪役・敵・障害となるキャラクターを考えつくだけ書き出してみましょう。

 そしてそのキャラのどういう所が好きで、悪役ながらもかっこいいか考えてみましょう。

 そして、そのキャラクターと主人公がどう向き合い、どういう関係を持っているかを考えてみましょう。

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