後期2限目 2.キャラクター創造論Ⅱ ランダム生成でキャラクター実作
はい。
それではキャラクター制作論Ⅱ二回目です。
先週は「とりあえず外見だけパーツの組み合わせで作ったキャラクターをつきつめてみる」(主人公編)ということをやりました。
今回はそれを、みなさん自身でやってもらおうと思います。
ちょっとお手元にまわしたプリントを見てもらえますか。
こちらの表には番号をふって
A.身体の各部分
B.設定要素
C.性格
D.物語のジャンル
E.性別
が並んでいます。
これから、ランダムに番号を決めて、ひとつずつ要素をとってください。
番号は自分の意志では選ばないように、各自、自分の携帯番号を見て、そのうち四番目・六番目・八番目・十番目の数字を見て、その数字の項目を選んでください。
Eは三つしかないので、番号のうち最初に出てきた0ではない3以下の数字で見てください。
できましたか。
ちなみに私の選択はこうなりました。
A.4 足
B.7 年老いている
C.5 ドジ・天然
E.8 魔法もの
D.2 女性
「足が年老いているドジで天然な女性」で、ジャンルは「魔法もの」。こういうキャラになりました。
これでA.【外見】の設定はできたことになります。なんでしょうね、「足が年老いている」って。まず、そのあたりから「なぜ?」と問うていく作業にとりかかりましょう。
そもそも、「足が年老いている」ってどういう状態なんでしょう。足だけシワシワで、老婆の足がくっついている状態なんでしょうか。ストレートに考えるとそうなりますね。
まあ「年老いている」という状態を、「人間ではないが年月を経たものがくっついている」と捕らえなおせば「石や樹木と同化している」というやりかたもできますが、ここは例として出しているので、ストレートに「老婆の足がくっついている」にしておきます。
では、なぜこのキャラの彼女は「足が年老いている」のでしょうか。
せっかくジャンルが「魔法もの」なので、ここでは原因に魔法関係のなにかをもってきたいところです。
たとえば、そうですね、彼女は「魔法を使うたびに少しずつ足の先から年をとっていく」ということにするのはどうでしょう。
いままで何度か、あるいは何十度か魔法を使ってきたせいで、足から上は若い女性である彼女は(まあほかの部分が若くないと「年老いた足」が際立ちませんから)、足だけがすっかり年老いた老婆のようにしわくちゃになってしまっています。
これだけ見るとかなり悲惨です。
ところが性格が「ドジで天然」。
どうやら本人はそんな悲惨なことになっているにもかかわらず、あまり気にしていないというか、どうもかなりいいひとのようです。なんででしょう。
「もとからそういう性格だったから」というのももちろんありですが、それではドラマチックさが足りませんから、こんな状況にもかかわらず彼女はなぜのんびりとした天然ドジっこのままでいられるのか、その理由を考えてみましょう。
たとえば……
・彼女はもともと樹木と共生している一種の精霊であり、魔法を使って年老いていくことは、彼女の種族にとって自然なことである。なので恐怖感もない。
まあこれでもいいですが、まだちょっと動きが足りない気がします。
ほかのキャラとの関係が窺える、こんなのはどうでしょう。
・彼女は自分のドジのために、以前いっしょに学んでいた兄弟弟子を失ってしまった。いま彼女が、魔法を使うたび足の先から老いていくのは、その兄弟弟子を救う力を身につける目的で、ある魔女と契約したためである。
このようにしてみましょう。
これも一見かなり悲惨な設定に見えます。
でも、こういった事情を踏まえてなお「ドジで天然」で、おそらくは「いいひと」である彼女って、意外性があって興味を引かれませんか。
前の授業で、「スカしたいやな奴に見えたのに、実は悲しい過去があるというギャップが好き」という意見が、好きなキャラのどこがステキかという意見で出ましたね。
つまりここで、キャラ設定に受け手が「おっ」と思うような、「ギャップ」を仕込むことができます。
ちょっと考えてみましょう。
この女性キャラは、魔法を使うたびに足の先から老いていくという呪いを受けているにもかかわらず、ドジな天然で、みんなから愛されているのほほんお姉さんです。
周囲のキャラは彼女の天然ぶりにあきれたり振り回されたりしながらも、「彼女はどうしてあんな呪いを受けているのにあっけらかんとしているんだろう……」という疑問をどこかに抱いています。
ある時、一行はとある敵に出会います。
いつもはぽわんとしているこの女性が、いきなり、血相を変えて相手に立ち向かっていくありさまに、みんなは仰天します。
ただでさえしわだらけの足がどんどん老いていくにもかかわらず、やっきになって魔法を使う女性。このままでは彼女が死んでしまうと心配になったみんなは、女性を引っぱってその場を離れ、話を聞くことにします。
明かされたのは、いつも明るくかわいらしかった彼女の、悲しい過去でした。彼女はむかし、自分の不注意のために、かわいがってくれた姉弟子を、先ほど遭遇した相手に奪われてしまった過去があるのです。
彼女の老いた足は、姉弟子を取り戻す力を得るために差し出した代償でした。
いつも明るくドジで天然な彼女は、実は、大好きな姉弟子との「かわいくて明るい、そのままのあなたでいてね」という約束を守るために、足が老婆のようになっていく恐怖に耐え、つねに明るくふるまっていたのです。
恐怖や痛みを表に出すことは、姉弟子との約束を破ること。自分のせいでつらい目に遭わせてしまった姉弟子への償いのためにも、こんな足くらいのことで、沈んだ顔なんてしていられない……と、まるで気にしていないようにふるまっていたのでした。
どうですか。
ちょっとしたエピソードになりましたよね。
みなさんのお手元のプリントには「A【外見】B【設定・立場】C【ストーリー】」と書いた空欄があると思いますが、以上がその作例になります。
【外見】が「足が年老いているドジで天然な女性」。
【設定・立場】が「魔法もので、明るくかわいいいいひとな魔法使い」。
【ストーリー】が、「彼女は自分のドジのために、以前いっしょに学んでいた兄弟弟子を失ってしまった。いま彼女が、魔法を使うたび足の先から老いていくのは、その兄弟弟子を救う力を身につける目的で、ある魔女と契約したためである」。
うしろで出てきたストーリーは、この彼女の抱えている「キャラストーリー」を、物語の中で、ほかのキャラクターともかかわらせながらどうやって見せるか、の例になります。これはまあ、ストーリーの作り方の方にかかわってくる話なので、ここではまたあとで扱います。
ランダム生成で出てきたフック(考えのとっかかりの謎・問題・目立つ場所)を、「どういう状態か」「なぜそうなのか」「そうなってしまった原因はなにか」「それによって周囲の人間関係はどうなるか」と一段階ずつ考えを進めていくことで、このようにキャラとストーリーが絡みあった形でのキャラクターが生まれてきます。
もちろん、ここで考えたキャラはあくまで一例ですから、ほかのバリエーションを考えることはいくらでもできます。
主人公がわの味方ではなく敵陣営の所属にする、あるいは、旅に同行しているのではなく、一種黒幕的な、組織上層部の存在ということにしても、また違ったキャラクターができそうです。
これらのバリエーションを考えることはまたあとに譲るとして、とりあえずは、「ランダム要素の組み合わせからできたキャラをたててみる」の演習をしてみましょうか。
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