14&15時限目 2.ファンタジー論 ゲームオブスローンズと締め

 はい、ファンタジー論なんですが、最終日の7月28日は、いまリアルタイムで制作されているファンタジー・ドラマの中でも非常にできがよくて面白いイチオシ作品、『ゲーム・オブ・スローンズ』を紹介しておこうと思います。

 原作はジョージ・R・R・マーティン『氷と炎の歌』(ハヤカワ文庫)。ちょっとぎょっとするくらい分厚い単行本&文庫が、現在第五部までが刊行されていて(第一部『七王国の玉座』、第二部『王狼たちの戦旗』、第三部『剣嵐の大地』、第四部『乱鴉の饗宴』、第五部『竜との舞踏』)、原作はまだ未完結のまま。今回見せるドラマは、原作者マーティンが総指揮を執った上で、原作ではまだ描かれていない先までオリジナル展開で語られており、小説を読んだ読者も、新たなドラマとして楽しめるようになっています。

 映画にも見劣りしないそのクオリティは、『ロードオブザリング』にも比較されるほどで、原作の大河ファンタジー戦記の雄大な物語のうねりを余すところなく再現しているだけでなく、豪華な衣装やキャスト、セット、世界各国で行われているロケーション、登場する大狼ダイアウルフや竜の精細なモデルなど、連続ドラマ離れした質の高さを保っており、海外ドラマの中でも突出した作品ということができるでしょう。



 長く温暖な〈夏〉が過ぎ、過酷な〈冬〉が迫るウェスタロス大陸。北の王国ウィンターフェルの領主エダード・スタークは、主であるロバート王の要請により、宰相〈王の手〉として、五人の子供たちをつれて故国を離れ、王都キングズランディングへ向かうことに。

 そしてエダード・スタークの私生児であるジョン・スノウは故国と兄弟に別れ、北の異形から人間世界を隔てる〈壁〉で、冥府の守人(ナイツウォッチ)になることに。

 一方で、かつてロバート王とその仲間に打倒された竜王ターガリエン家の生き残りの王女デナーリスは、兄ヴィセーリスの画策によって蛮族ドスラク族の首長に嫁ぐことに。



 おおまかにはこの七王国の争乱、またジョンとナイツウォッチが〈壁〉で接することになる闇の侵攻、そして竜王の血を引き竜の女王となるデナーリスの遍歴の、三つのストーリーが複雑に絡み合う形で物語は進んでいきます。過剰に幻想的にも、また理に落ちすぎることもなく、ロマンと現実性がほどよく混じり合った、地に足のついた展開は、作者のマーティンがSFに根を持っている作家だからかもしれません。


 現在、小説は第五部までで止まっていますが、ドラマは第七シーズンに突入し、原作には書かれていないオリジナル展開に突入しています。原作にある部分でもさまざまなアレンジが施されているので、そのまま見ても楽しめますが、原作を読んでおくとさらに楽しみも増すかと。




 さて、はじめファンタジー論というお題をいただいた時は、こんなに話しにくいお題になるとは思いもしませんでした。

 ファンタジー、と一口に言いますが、この一言はものすごい広さの意味、ちょっと一口には語りきれないほどの多くの意味を含んでいて、そのどれもがとりとめなく深く広く、語ろうとするとあまりにも膨大な内容の中で迷子になってしまって、結局何を話していいかわからなくなってしまうのです。生徒さんにはまことに申し訳ないです。神話とか異世界とか、ライトノベルとか、フックになりそうなキーワードがあっても、さらにその中に細分化される意味が大きすぎて、すぐ話の筋がどっか行ってしまうのですね。

 もしかしたら、なにかファンタジー論を扱った本を一冊決めて、それを購読する形式にした方が講義としての形はまとまるのだろうかとも思いますが、かといって、そうした理論を頭に入れることが、実際にファンタジーを創作する上でなにか役に立つのだろうか、と思うとたぶん立たない、としか答えられないわけで、そうすると、やはり各個作品をいろいろあげていって、その中で「こういうファンタジー」「こんなのもファンタジー」「あんなのもファンタジー」と、さまざまなファンタジーの形を提示し、その中で、自分自身のファンタジーの形を、各自でつかんでもらうしか、私には思いつかなかったのです。

 自分でも煮え切らないというか、ほんとにこんなやり方でよかったのかという忸怩たる念はいまだに拭えませんし、もし来年もやらせていただけるのでしたらもうちょっとやり方を考えたいとは思っていますが、何はともあれ、ここで見たファンタジーのいろんな形に、なにか得るところがあったと思っていただければいいなと、ひたすらそれだけ思っております。

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