後期6限目 2.キャラクター制作論 シャーロックとジョン

 はい、キャラクター論です。

 先週はBBCのドラマ『SHERLOCK』の第一話『ピンク色の研究』を見てもらいました。

 その上で、二人ひと組のキャラクターである「シャーロック」と「ワトソン」の二人をキャラクター的に分析し、二人がどのようにキャラクター的に見て物語を作り上げているか、について解説したいとと思います。


【キャラクターのアウトライン】

●シャーロック・ホームズ

 きわめて頭がよく、ちょっとしたことからすぐにすべてを見抜いてしまう天才的コンサルティング探偵。推理能力にはすぐれているが一般常識や社会性、協調性はまるでない。警察に協力して事件を解決しているが、あまりにも常識に欠けて奇行が多いため、「変人」「サイコパス」呼ばわりされて誰からも感謝されない。

(欠けているもの=常識・愛情・友情関係)


【それに対するパートナーキャラ(欠落を埋めるためのカウンターキャラ)】

○ジョン・ワトソン

 常識人で穏やか、人当たりがよく、シャーロックの奇矯な態度にも反感を持たず素直に感嘆する。元軍人で戦場の記憶のトラウマ?から足を引きずっており、杖をついている。

(対人関係を築けないシャーロックの友人となり、影響を与えるためのキャラ)


【欠落が生まれた理由はなにか】

 あまりにも頭がよすぎるため、一瞬にしてすべてのことを見抜いてしまうシャーロックには、周囲の人間が愚か者にしか見えない。そのことを隠さず態度に出してしまうシャーロックは周囲の人間に反発され、嫌われるが、自分には事件と事実だけがあればいいと信じているシャーロックは、友人や社会関係の大切さを自分からは知ろうとしない。


【欠落を克服するために必要な出来事・展開とはどんなものか】

 シャーロックの突出した特徴である孤独癖、知性や好奇心が逆に彼に危険を呼び込む事件を演出し、そこから、頭脳に依らないジョンの反射的な行動力と決断力、そして友情によって救い出されるという展開が不可欠である。



 以上がシャーロックがわのアウトラインです。

 次はジョン・ワトソンがわ。


【キャラクターのアウトライン】

●ジョン・ワトソン

 元アフガニスタン帰りの軍人で軍医。足を引きずる障害を負っており、杖をついている。かかっているカウンセラーからは戦場の体験による精神的後遺症だと言われ、治療のためにブログを書くよう言われているが、平和な日々に意味を見いだせず、ただ記憶に悩まされ鬱々とした日々を送っている。

(欠けているもの=(表面上は)動かない足、戦争のトラウマ?)


【それに対するパートナーキャラ(欠落を埋めるためのカウンターキャラ)】

○シャーロック・ホームズ

 変人だがきわめて優秀なコンサルティング探偵。ルームシェアをすることになったジョンを強引に捜査に巻き込み、そのことによって、ジョンが心の奥底で求めていた危険とスリルを与える。

(ジョンが真に望んでいるスリル溢れる冒険へと彼を誘い込むキャラ)


【欠落が生まれた理由はなにか】

 劇中で明らかになる事実。ジョンが足を引きずるのは戦場の恐怖からではなく、平和な日々の退屈さ、むなしさから。実は戦場のスリルや危険をジョンは懐かしがっており、それを取り戻すことによってだけ彼の心の隙間は埋まる。


【欠落を克服するために必要な出来事・展開とはどんなものか】

 彼は危険を顧みずシャーロックとともに冒険に飛び込み、求めていたスリルを存分に体験する。最終的にはその行動力と決断力でシャーロックを救い、これからも続く冒険への期待とシャーロックへの友情に心を満たされる。



 以上がシャーロックとジョンの両面から見た「欠落しているもの」と「それを補うパートナーキャラクター像」です。

 そして、


【欠落を克服することによって二人の関係はどう変わるか】


 自分の知性と推理にしか意味を見いださなかったシャーロックは、自分の推理に素直に感心し、いっしょに冒険に出てくれるジョンという仲間を得て、多少社会への関心を持ち始め、友情という心に気づいて、孤独から一歩足を踏みだす。

 自分の心が自分でもわからないまま鬱々とした日々を送っていたジョンは、シャーロックと出会ったことで戦場にいるかのようなめくるめくスリルと冒険の日々を取り戻し、心満たされてふたたび完全な人間として立つことができる。


 かんたんにまとめるとそういう話になります。

 細かく見ていきましょう。


1.

 戦場の夢を見ているジョン。精神科医に心の傷を指摘され、彼の障害は洗浄のトラウマから来ている者だとされる(間違った示唆)。


2.

 ジョンとシャーロックの出会い。初登場時から死体をむち打つシャーロックの姿で彼のキャラクターの奇矯さを印象づける。ジョンとシャーロックの初対面。シャーロックがいかに推理力に優れた名探偵かの提示。


3.

 事件が進展する。四人目の連続自殺事件。捜査に向かうシャーロックはジョンを仲間に引き込む。シャーロックの推理にすなおに感嘆するジョン。慣れない反応にシャーロックは驚くが、まんざらではない。(シャーロックはジョンに少し心を許す)


4.

 ジョンは謎の男に出会い、彼が本当に求めているのは戦場のような危険とスリルに満ちた日々であると示唆される。(彼の持つ欠落の真相)


5.

 犯人を追いかけてロンドンの街を疾走するシャーロックとジョン。シャーロックはこれまで孤独に過ごしてきた捜査体験を仲間と分かち合う楽しさを知る。ジョンは喪っていたスリリングな体験をふたたび取り戻し、心の傷を忘れて、動かなかった足は元通り動くようになる(杖をレストランに忘れてきてしまう)。


6.

 真犯人がシャーロックを連れ出す。知性と好奇心が突出しているシャーロックは、そのあまりにも強い自負心と好奇心をついてくる犯人の誘惑に抵抗できない。頭脳で動いてしまうシャーロックはうかうかと犯人の術中にはまり、致命的な危機に陥る。

 一方、ジョンはシャーロックが真犯人に連れ出されたことを察知し、すばやく行動を起こして追跡する。ついにぎりぎりのところで二人を見つけた彼は、軍人としての腕前と、果断さ、行動力、頭脳に依らないとっさの判断力でもって、犯人を撃ち、シャーロックを死の淵から救出する。


7.

 エンディング。ジョンによって救われたことを知ったシャーロックは彼の銃撃について口をつぐみ、親密な友人としての立ち位置を彼に認める。また、自分のあまりにも強すぎる知性や好奇心が危地を呼んだことを知り、そこから救ってくれたジョンの行動力や人間性を好ましく感じる。

 自分のとっさの行動によってシャーロックを救えたジョンは満足し、ふたたび完全な人間になったと感じる。冒険とスリルをこれからも運んできてくれるであろうシャーロックに対して戦友のような友情を感じ、うつろだった心を満たされる。


 とこのようになります。

 ストーリーの進展と、シャーロックとジョンのキャラクターとしての変化と成長、二人の関係の変化がシンクロしているのがわかりますかね。


 何度も言っているように、出来事を並べるのがドラマではありません。その事によってキャラクターがどのように変化し、関係がどのように動いていくかを描くのがドラマです。

 出来事や事件はそれら、キャラクターやその関係の変化をどれだけうまく描けるかによって選択されます。キャラクターから逆算してストーリーを作ると言うこと、キャラクター作りとストーリーとの関係が、わかるでしょうか。


 次回は、これまでは基本的に「仲間」キャラを作成してきましたが、今度は「敵」「悪役」「障害」としてのキャラクターを作っていきたいと思います。

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