ブラナポリ 4~7軒目

 4軒目は洋食屋さん、5軒目はまた喫茶店でナポリタンと出会った。躊躇なく店に入り、躊躇なくナポリタンを頼んで、躊躇なく出てくる。


 お店を見つけるのは結構大変だ。

 もう4時間くらい歩いてると思う。それでやっと5軒。

 けっこう疲れた。

 次はスニーカーにしよう。ローファーでも足が痛い。

 一方、真夏ちゃんはまだまだ元気だ。大きく手を振って私の前を大股で歩いてる。

 うーん、若いっていいなぁ。私もまだ十分若いけど。


「真夏ちゃん、疲れないの?」

「ぜんぜん! でもお腹が重くなってきましたけど」

「そうだね、もう5皿も食べてるんだもんね。2キロくらい?」

「でもまだまだ食べれます」

「私も」

「お姉ちゃんだったら、20くらいイケちゃいそう」


 そう言われて、自分のお腹に手をあてて想像してみる。


「うーん、5皿でこれだもんね。だったら25くらいかな」

「すごいなぁ~。わたしだったら10くらいだ」

「そう? でも初めて病院に来たとき、4キロくらい食べてたんだよ。真夏ちゃんは」


 真夏ちゃんは、重ね着のワンピースの上から、ふっくらと出てきたお腹をすりすり撫でている。

 まだいけるかなって考えてるのかな。


「じゃ、まだ行けちゃうかな」

「お家に帰るまであと2時間くらいあるから、急いでお店を探してどんどん入ろう。えへへ~、真夏ちゃんのお腹がパンクするまで食べさせちゃうぞ」

「え~お姉ちゃん、自分ばっかり食べれるからって」

「ほら、早く!」


 楽しいなぁ。真夏ちゃんとの食べ歩き。

 商店街の南側だけでも、1日10軒近くの店に入れちゃうし、まだまだお店は一杯あるし、こんなに楽しいなら毎日やってもいいな。

 でもお金が続かないや。


 ・・・・


「う~ん、苦しい~。もう入んない~」


 真夏ちゃんが唸っている。

 あの後、裏手からぐるっと廻って隣駅につながる小路に入ったのだけど、飲食店が一杯あって、あるわあるわのナポリタン祭り。

 ざっと見ただけで7軒はあった。


 これは一日でまわるのは無理かと思ったけど、次回またここからスタートするのがイヤな私達は、無理をしてでもナポリタンがある店全てに入ることにしたのだ。

 私が言ったんじゃないよ。真夏ちゃんと決めたんだよ。


 それで、いま7軒目。

 最後の店にいるんだけど、さすがに大食いを豪語する真夏ちゃんでも、いきなりナポリタン12皿はきつかった。

 半分食べたあたりからペースが落ちはじめ、あと2、3口というところで「うぐ~」とか言いながら無理やりフォークを口に運んでる状態。

 お腹もポンポンになっている。


「無理しなくていいよ」

「ううん、全部食べる」

「だってもう、一杯いっぱいでしょ」

「でも、出されたものは全部食べるのっ」

「もう」


 意外に頑固だなぁ。お姉ちゃんが食べれるなら私も食べれるといって聞かないのだ。


「真夏ちゃんは体がちっちゃいから、私と同じじゃないよ」

「だって、気持ち悪くないのに落ちて行かないんだもん。くやしいっ」


 悔しがることないでしょと思ったが分からないでもない。確かにあと少しでギブアップするのは私も嫌だ。


「しょうがないなぁ。待っててあげるから焦らなくていいよ」

「うん」


 見ると真夏ちゃんの華奢な体は、胴体だけ二まわりか三まわりくらい大きくなっている。胸がないから一層お腹が目立つ。

 ワンピもぱんぱん。体対比でいったら私が10キロくらい食べたような状態だ。

 これは辛いよ。いまお腹を押したらガチガチになっていることだろう。

 ワンピも柄まで伸びてるし。

 こりや、どうやってもお腹隠せないなぁ。


 小学生が細い手足にまるまるとしたお腹を抱えていると、なにゆえかひどく大人に注目される。

 時には、おせっかいなおばさんに声をかけられることもある。

 そうなると非常に面倒くさい。理由を聞くまで帰してくれないのだ。

 私も小学6年のときに親からもらったお金で食べ放題に行き、さんざんっぱら大食いしたお腹を晒して歩いてたら、おせっかいなおばさんに捕まったことがあった。

「そのお腹はどうしたの」「親はどうした」「一人で来ちゃいけない」と随分言われた。

 うっさいわ! ボタンが弾けるまで食べようが私の勝手だっての!


 そんな経験があったので、途中で真夏ちゃんには私のカーディガンを貸してあげていた。それを羽織るか巻くかするだけでもちょっとなら腹を隠せる。

 でも……もうこのお腹じゃあねぇ。


 サキさんに頼んで、子供用の大食いファッションでも考えてもらおうかしら。

 でもサキさんは、マタニティが専門になっちゃったから子供服はダメか。


 それでも真夏ちゃんは息をするたび伸び縮みするワンピをさすりながら、何度も座りなおしたり背伸びをしたりして、やっとの思いで残りのナポリタンを完食。


「うー、食べた~。もーお腹キツキツ」

 真夏ちゃん、漫画みたいに丸々と膨らんだ胴体をぴちぴち叩いちゃったりして、見てるこっちが興奮しちゃう。


「よく食べたね。どうだった?」

「満足~。ひっさしぶりにお腹一杯食べた! もうこれでもかってくらい」

「そうだね」

「でね、いろんなナポリタン食べれて、おもしろかった!」

「私もよ」


「私、やっぱりお姉ちゃんに比べたら、まだまだだって分かったよ」

「え、食べる量のこと?」

「うん、よーし、もっと鍛えるぞー」

「あはは、そんな鍛えるものじゃないけどね。私は真夏ちゃんの味覚の鋭さにびっくりしたよ」

「そうですか」

「うん、大物だ、真夏ちゃんは」

「そ、そうかな」

「うん!」


 ちょっとお金がかかるけど、真夏ちゃんのキラキラ笑顔が見られるなら安いものだ。

 なにより先生とのご飯と違って私も思う存分、心置きなく食べれるしね。

 真夏ちゃん、グッドアイデアだよ! グルメマップ作り。

 早く来週にならないかな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る