グルメガイドマップを作ろう
私達は本屋さんに行ってグルメガイドを買い漁り、ファミレスに籠って、こんなガイドを作ろうとか、この見せ方がイイわねなんて、私達が創るグルメガイドマップの完成形に夢を膨らませていた。
真夏ちゃんは、なかなかのこだわり派で、作るなら写真も載せて本格的にやりたいと言う。
これは思ったより凄いのが出来そうだ。
楽しみ。
それより食べ歩き楽しみ~。
文房具屋さんで色鉛筆と、おっきなクラフト用紙を買って、それを入れるケースも買っちゃった。
やるならちゃんとやりたいもんね。
そして我が家で二人頭を並べて街の地図を書く。
ぐふふ、我が家だもんね。私はこう見えても奥様なのだ。
ここは私と先生の小さなお城よっ。借家だけど。
真夏ちゃんはウチに上がると、「お姉ちゃんちって落ち着いた雰囲気だ~。すごい片付いてる~」と感動していた。
……ごめん、真夏ちゃんのために片付けました。ホントはもっと散らかってます。
でも少女の夢を壊しちゃいけないから言わない。
「真夏ちゃん。ジュースがいい? それともお茶?」
「うーん、お茶がいい」
「真夏ちゃんのチョイスって渋いよね。ご飯の後はいっつもほうじ茶じゃない」
「うん、おばあちゃんの影響かな。ウチはご飯の後はいっつもお茶なんだ」
「ふーん」
「『食後のほうじ茶は体にいいんだよ真夏』って言うんだよ」
多分のおばあちゃんの喋り方のだろう、背中を丸めてそれっぽモノまねで教えてくれた。
でも喋り方はお年寄りっぽいんだけど、背中を丸めた格好はいつもの真夏ちゃんのままだよ。
親子ってどこまでも似るんだなぁ。
真夏ちゃんの食後のお茶をすする姿って癒されるんだよね。
ちょっと首を前に出して、そーと湯呑に口を近づけてズズって吸うのが。それを見たさに、もう一軒行こうって言っちゃいそうになる。
「じゃ、地図を書こう! どこからどこまでにしよっか」
「ここの商店街を中心に隣の駅まで書こうよ。三駅分書いちゃう」
「おっきいね。この紙一枚じゃ足りないかな。見開きにしようか」
「うん!」
そんな具合に、その場で計画を立てながら、二人で歌を歌ったり、おしゃべりしながら街の大きな道路を薄く鉛筆で書いて行き、ランドマークになる建物を置いていく。
書き始めると、「この角ってどんな建物だったけ?」なんて真夏ちゃんに聞かれるのだが、これがなかなか覚えていないものだ。
「ちょっと待って、ネットで調べるよ」
真夏ちゃんも私と頭を並べてパソコンを覗いてる。
うふふ、ホントに姉妹みたい。
それでも分からない所は、後で取材に行こうとなった。
こりゃ力作になるぞ。
「ねぇお姉ちゃん、この仕上げってどうするの。鉛筆で書いた後」
「私さ器用な暇人、一杯知ってんだ。商店街の裏手にPOP屋さんがあるじゃない。あの子と仲良しなんだ。凄く絵がうまい子だから頼んで清書してもらっちゃう」
「お姉ちゃん、お友達がたくさんいるんだ! いいなぁ~」
「へへへー、POP屋さんの実子ちゃんは、この商店街のプログラムで初めてお店を持った子だから特別かな? みんなで応援したんだよ」
「そうなんだ。プログラムってなに?」
そうか、引っ越して来たから分からないんだ。
私は、椎名と会長が立ち上げた、商店街の店を盛り上げる作戦の話を教えてあげた。
真夏ちゃんは、ああ大食い番組でお姉ちゃんが宣伝してたやつだと、やっと番組の事とこの商店街の取り組みがつながったみたいで、スゴイスゴイと感動することしきりだった。
「お姉ちゃん、凄い人だったんだ!!」
あら、大食いの凄い人から格上げしましたよ。
うれしい。
「でも、凄いのは椎名だけどね。あいつは本当に凄いよ。この商店街がこんなに活気があるのもあいつが頑張ったからだもん」
「へー、椎名さんにも会いたいな」
「多分自動的に会うと思うから大丈夫よ。でも、優しいお兄さんを期待しないでね。あいつは隙あらば人を使おうするから心を許しちゃダメよ」
「え、怖い人なんですか」
「うーん、怖くないけど……いや怖いか? 悪い人? じゃないか? 無礼な人? て程でもないよね」
「???」
「一言じゃ言えないなぁ、まぁ会って真夏ちゃんが判断してよ」
「はーい」
そんな具合に、時には私が真夏ちゃんのウチに行ったり、真夏ちゃんが来たり、先生が手伝ったりして、一カ月後に下書きが完成した。
「やったー! 完成ー!」
両手を上げて大喜びの真夏ちゃん。
「すごいねー! こんな大きいのが出来ちゃったよ!」
私も何か達成した感があってうれしい。なにより真夏ちゃんがこんなに喜んでくれるのがうれしい。
こっちまでぴょんぴょん跳ねて、手を取りあって喜こんじゃう。
「まだ清書されてないけど、これにクッキリ色がついて地図になるんだよ。どう出来栄えは?」
「はい! 最高!」
うう、ひまわりみたいな笑顔だ。お姉ちゃんはがんばって良かったよ。
「ここの先生が描いた、下手くそな絵は大丈夫?」
「うーん、実子さんがきっと綺麗にしてくれると思います」
あはは、真夏ちゃん言うなぁ。
なぜか真夏ちゃん先生に厳しいんだよね。私には超素直なのに。
先生が「ここの道は真っ直ぐじゃないよ」とかいうと、「いいんです! だいたい真っ直ぐなんですから!」って結構冷たいんだよね。
なんでだろう。
先生も「なんで俺、真夏ちゃんに嫌われてるのかなぁ」ってしょんぼりしてたし。
一応、嫌ってないよとフォローしておいたけど。
小5くらいって、男の子と一番距離がある時期かもな~。私もクラスの男子が全員お子ちゃまでアホに見えたし。
大人の男の人はステキなんだよって教えてあげようかしらん。
下書きは、そのまま実子ちゃんの所に。
今はセール後で暇だからすぐ出来ちゃうよなんて言ってた。
実子ちゃん頼りになる~。
真夏ちゃんは、ちょっと私の後ろに隠れながら初めて会う実子ちゃんに固くなって、「よろしくお願いします!」って何度も頭を下げてる。
それが見て実子ちゃんが、「梓ちゃん、その子は? まさか梓ちゃんの子じゃないよね」だって。
いや、私がいつ妊娠しました!?
確かに数年前は激太ってましたけど、年が合わないじゃない。
もう、実子ちゃんも、ここに来た時の初々しさがもうないよ。
というわけで、ちょっとダマしてやろっと。
「子供な訳ないじゃん、私の妹だよ。御子柴真夏だよ。ねっ!」
「んっ、え! は、はい」
真夏ちゃんに目で合図してやる。
「へー、妹いたんだ。ふーん、似てないね。あんまし」
うっ、鋭いな。
店長だったら絶対騙せてるのに、さすがこの若さで店を構えるだけの事はある。
だがここで折れたらあかんぜよ。
「うん、13も年が離れてるからね。でも大食いは同じなんだ」
「そうなんだ、真夏ちゃんも一杯食べるの?」
「はい、いくらでも食べられます」
「じゃ、ご両親は大変だね。ご飯作るの」
「でも、商店街はおかずがいっぱいあるから全然平気だって」
「ほら! 妹じゃないじゃない!」
「え! なんで!?」
「だって、梓ちゃんのご両親ってここじゃないじゃん」
ぐっ、咄嗟の機転、いや誘導尋問にまんまと……
実子め、してやったりとニヤニヤ私を見るな!
やむなし。事実を認めよう。
「恐れ入りました。妹とは世を欺く仮の姿。実は真夏ちゃんはウチの病院で知り合ったお友達なんです。あまりにかわいいんでウチの親族にしたいという願望が、つい」
「いっちゃ悪いけど、梓ちゃんじゃいくら頑張っても私を欺けないよ」
椅子をくるくる回しながら顎で言うな、顎で。
「そのさ、椅子に肩肘ついて言わないでくれる。あからさまな上下を感じるんだよね」
そうなのだ、実子ちゃんは椅子にすわって背もたれに肘を乗せて、斜めに座って足を組んでコッチを見てる。
私と真夏ちゃんは、その前に立って二人で頭を垂れているって構図。
なにか、職員室で怒られている学生時代の自分を見るようだ。
「この手のことは、こっちがプロなんだから当たり前なの。その代り梓ちゃんは患者さんの話を気持ちこめて聞けるじゃん。看護師に向いてるよ」
「……だよね!」
よっぽど豹変して顔が明るくなったんだろう。実子が一瞬驚いて、あははと笑い始めた。
そのやりとりをみて、真夏ちゃんも笑顔に。
「真夏ちゃん、食ってばっかりのお姉ちゃんだけど、よろしくね」
「ちょーっとまった! 食ってばっかは余計でしょ! 私と真夏ちゃんは食い友なんだからいいの。実子ちゃんは心配しなくても!」
実子ちゃんはお手上げだって感じでハイハイと鼻で笑ってた。
実子め、お前のところにはもう看板もPOPも発注しないぞ!
地図が出来るまでの間、私たちはまずどこの店のどのメニューから食べようか話し合った。
「真夏ちゃんは、まずどのメニューから攻めたい?」
「うーん」
顎に人差し指を当てて、うーんと考えてる。しぐさがかわいい。
わたしもやってみよかしら。
だめか。二十歳過ぎてそれは。
「ナポリタンとかどうですか? 喫茶店とかイタリア料理のお店もあるから、まずナポリタンの食べ比べで」
「ナポリタンか」
言われてみると、隣の駅にはちょっとしたオフィスがあるので喫茶店もぽちぽちある。
商店街も中、外を問わずイタリア料理店は多いし、ナポリタンは簡単なメニューだけど、だからこそ味の違いが結構大きそうだ。
「いいね、ナポリタン。ナポリタンでいってみようか」
「はい!」
真夏ちゃんが破顔した。
うん、真夏ちゃんが笑ってくれると私もハッピーだ。
よーし、じゃ明日から食べ歩くぞー!
「真夏ちゃん、ガンガン食べよう!」
「はい、お姉ちゃん、ガンガン食べよー!!」
「おー!」
すっかり大食い前提で大盛り上がりだ。
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