そうだ、お風呂に行こう!

 時間を確認するともうすぐ3時。ちょうどいい時間じゃない!


「真夏ちゃん! ちょっとパフェ食べて待ってて、すぐ戻ってくるから!」

「え、お姉ちゃん、まだ……」

「すぐ帰ってくるから! 私の分も食べてていいよ!」

「お姉ちゃん!」


 善は急げ!

 ここからなら走って帰れば30分で帰ってこれるはず。

 汗だくになっちゃうけどいいもんね。だって。うふふふっ。


 だが逸る気持ちと裏腹に、今日は装備が悪くて早く走れない。

 ああもうっ、なんで今日に限って踵のあるサンダルできちゃったのかなぁ。走りにくいったらありゃしない。

 それにいい大人がスカートを翻して全力疾走はカッコ悪いし、商店街の中じゃ人ごみをかき分けて走らなきゃならないし。お店の仲良しはむやみやたらに話しかけてくるし。

 なんで私、歩くだけで声かけられるのかな。そんなに目立つ格好してるかな?



「だー、やっと家に着いたー」


 昔話の三枚のお札ばりに様々な障害を通り抜け、ドアに手をかけると、あれ? カギが開いてる。応診終わったんだ先生。


「あれ、梓、真夏ちゃんとご飯に行ったんじゃないの?」

「うん、ちょっと一旦帰ってきただけ~。先生も応診じゃなかったの」

「うん、まぁ……、それよりどうしたの?」

「えへへへ、イイこと思いついたんだ。でも先生には秘密」


 玄関にあったエコバックに必要な荷物をポイポイと突っ込んで急いでスニーカーに履き替える。

 うわっとと。

 立ちながらだとスニーカーが履きにくい。それにこのスカートには合ってないなぁ、まぁ近くだからいいや。


「秘密? それは気になるなぁ」


 あ、しまった。スキンケア忘れた。もうっ! 靴はいちゃったよ。


「先生ー、化粧水と乳液取って!」

「え、いいけど、どんな秘密だよそれって」


 これで合ってる? なんて言いながら化粧水と乳液を持ってきた先生が教えて欲しそうな顔で私を見てるけど教えてあげません。

 女は秘密がある方が魅力的でしょ。唇に人差し指なんか当てちゃって「ヒ・ミ・ツ」とか言っちゃう。

 先生、ハートを撃ち抜かれたかしら。


「じゃ、また行ってくるね。先生!」

「梓ー!」

「いってきまーす」


 先生には申し訳ないけど、言葉にしちゃうと素敵な閃きが色褪せてしまいそうなのでナイショにさせてね。


 また急いで、今来た道を逆戻りだ。

 スニーカーだから足は楽だけど、今度は荷物がカランカラン鳴ってうるさい。音が出ないように荷物を押さえ込むと、今度は走りにくくて疲れが倍増。

 ダメだ、息が切れてきた。

 ごめん真夏ちゃん、ちょっと歩かせて。


 結局往復には40分もかかっちゃった。

 カメの私を許しておくれ、セリヌンティウス。

 だが1秒でも真夏ちゃんを待たせちゃいけないので、せめて急いで来た感を醸し出そう。


 ガラりと引き戸を開け放ちニュールンベルクのマイスタージンガーをBGMに背負い、逆光の入り口に立つ。


「お姉ちゃん、急いで来ました!!!」


「遅い、お姉ちゃん。どこ行ってたの! 私、お姉ちゃんの分まで食べたんだからね。凄い大きいパフェでお腹いっぱいだよ」

「これよ、これ!」

 荷物の中身をむんずとつかみ、真夏ちゃんに見せてあげる。


「え、タオル? 石鹸?」

「銭湯よ! 銭湯に行こうよ! 汗かいちゃったからさっぱりしようよ!」

「え、そのために一度帰ったの?」

「そ、さっき歩いてる時に煙突が見えたの。あれお風呂屋さんだよ」

「う、うん。でもこんな時間に?」

「銭湯は3時からやってるんだよ」


 息を切らした王立ちで力説してる私が余程おかしかったのだろう。真夏ちゃんはぷぷっと笑って、お姉ちゃん面白い! 私もパフェ食べ過ぎて寒くなっちゃったから行くよと言ってくれた。

 よっし!



 お店を出て、真夏ちゃんとつなぐ手も軽やかにルンルン気分で銭湯に向かう。

 銭湯は我ながらいいアイデアだ。この時間なら一番風呂。さっぱりできるし真夏ちゃんともスキンシップできちゃう。


 お風呂屋さ~ん、お風呂屋さ~ん、ひっさしぶり~。

 おふろの夢はバスロマン~。

 大きいお風呂、お楽しみ~。


「何? その歌?」

「へ?」

「お風呂屋さ~んって」

「やだ、私、歌ってた?」

「うん、鼻歌」


 気づかぬうちに浮かれ気分が口から漏れてたんだ。どんだけ楽しいんだ。私。


「はずかしいなぁ~。大きいお風呂に入れると思ったら楽しくなっちゃって。いま歌つくっちゃった」

「ねぇ、その歌の続きってどうなるの? 歌ってよ」

「考えてないよ。勝手に口ずさんじゃったんだもん」

「お姉ちゃん、幼稚園の先生みたい」

「そうかな。私としては年上の方がしっくりくるんだけどね」


 銭湯は瓦屋根の重厚な宮造り。こんなりっぱな銭湯があったんだ。

 薪の焼ける仄かな香り。暖簾に「松の湯」の大文字。入り口の横に置かれた自転車達。

 銭湯って感じの銭湯だ。


「真夏ちゃん、銭湯って初めて?」

「2、3回行ったことあるけど、すごいちっちゃい頃」

「私も久しぶり!」


 靴を下駄箱に入れて、カギを取って脱衣場に。

 西日のあたる明るい脱衣場には、壁一面に脱いだ服を入れるロッカーが並んでいる。

 四角いガラスケースの牛乳冷蔵庫、針の付いた重々しい体重計。やたら高いところにある番台。

 本当に思った通りの銭湯だ!


「わぁ~、一番風呂の匂い」

「これって、一番風呂の匂いなの?」

「うん、なんか違うんだよ。香りが」


 両手を広げて思いっきり銭湯の空気を吸い込むと、体も気持ちもすっかり軽やか。早く服なんか脱いじゃって湯船に浸かりたーい。


「お姉ちゃん、ここで服を脱ぐんだよね」

「そ、好きなロッカーに服をいれるの。あ、タオル渡しておくよ」

「う、うん」

「どうしたの?」

「だって、なんか、広いし明るいし」


 受け取ったタオルを持って、うつむき加減にモジモジしている。


「?」

「……」

「そうか~、真夏ちゃんもお年頃だもんね。女同士でも恥ずかしいか~」

「だって」

「病院で見せてたじゃない」

「あれはお腹だけだもん」


 じゃ~、と言ってジリジリと真夏ちゃんに近づいていくと、私の殺気を感じてか真夏ちゃんもジリジリと後ずさっていく。

 まだ脱ぐ前だというのにタオルで胸なんか隠しているから、まるで私が幼気な少女を襲ってるみたい。

 違った、これは麗しい女のスキンシップですわよ。


 脱衣場の隅っこまで包囲を縮めて、いつでも襲いかかれる、いや捕まえられるように腰を屈めると、真夏ちゃんは小動物のように小さくになって逃げ場をもとめてきょろきょろ。


「ふふふ、もう後がないぞ。どうする真夏」

「お姉ちゃん、こわい~」


 宝塚ばりの低い声で真夏ちゃんの恐怖を煽っちゃう。なんか無性に楽しくなってきたぞ。

 退路を失った真夏ちゃんが、そそっとカニ歩きで横に逃げようとするんだけど、そんなことはさせません。

 真夏ちゃんが一歩踏み出したのを合図に私は両手を広げて真夏ちゃんに飛びかかった。


「うりゃ~」

「きゃー!!」

 逃げる真夏ちゃんを後ろから抱きしめて、水色のワンピースを下からたくし上げちゃう。


「いやー」

「観念してお姉ちゃんと、お風呂にはいるのだ~」

「お姉ちゃん!」

「手をあげろ~、ばんざーいって!」

「わかったよう、わかった、自分で脱ぐって~」

「初めから素直に脱げばよいのだよ。おぬしもウブよのう」

「なにそれ~、もうお姉ちゃん強引だよ」

「あははは、だって早く入りたかったんだもん」

「もう、どっちが子供だかよく分かんないよ」


 ホント、どっちが子供かよく分からないけど、なんか銭湯ってテンションが上がるんだよね。


 真夏ちゃんは私に背中を見せて、つつと服を脱ぎ始めた。靴下から脱いで、あら? ちゃんと揃えて畳むんだ。躾がいいね。

 私、ぽいって自分の靴下をロッカーに放り込んじゃったけど、見習ってちゃんと畳んでおこう。


 真夏ちゃんの肌は綺麗だ。

 手足は日焼けしてるけど、背中は真っ白でツルツル。

 私はちょっと脂肌だから、すごくうらやましい。食べ過ぎると時々ブツブツしちゃう。

 まぁ食べ過ぎるから悪いんだけど。



「真夏ちゃん、準備はいい」

「はい」

 タオルで隠してくるっとこっちを振り向くと、おわ~タオルがお腹に乗ってるよ。


「真夏ちゃん、お腹がすごいよ」

「もうっ、さっきあんな大きいパフェ2つも食べたんだよ。私だけ」

「そっか、わたしお腹ペタペタだから、そんなに食べたっけと思って」

「だってお姉ちゃんが、居なくなっちゃうから」

「結構大きいパフェだった?」

「めちゃめちゃ大きかったよ。私の顔くらいあったのに2個だよ。ナポリタンだって4皿も食べてるのに」

「ごめんごめん、おかげでお風呂に入れるんだからさ。さぁ、行こう~」


 真夏ちゃんの手を引いて洗い場に向かう。

 ガラガラと扉の開く音が浴場に気持ち良く響く。正面には富士山と荒波。

 すごー、伝統的すぎる! ココ!

 今日二つ目の穴場発見だ!


「真夏ちゃん、銭湯のマナー知ってる?」

「え、マナー?」

「うん、まず体を洗ってから湯船に入るんだよ」

「案外普通のマナーですね。わたし初心者は一番入り口に座るとか、そんなのかと思いました」

「そんなわきゃないよ。他にも湯船にタオルを入れないとか、熱くても水でうめないとか、あるんだよ」

「へー」

「じゃ、洗いっこしよ!」

「はい」


 お互いタオルに石鹸をゴシゴシして、交互に背中を洗い合う。真夏ちゃんは小っちゃいからあっというまに終わっちゃうけど、私の方は大きいから真夏ちゃんは大変だ。


「大変だから、ほどほどでいいよ」

「ううん、大変じゃないよ」

 いいねぇ、姉妹っぼーい。なんかほっこりしてきた。


 二人で湯船に浸かってはぁ~と息をつくと、真夏ちゃんが私の事をじーと見てる。


「どうしたの?」

「……お姉ちゃん」

「ん?」

「お姉ちゃん、おっぱい大きいよね」

「えっ! 急に!」


 肩を出して浸かってるから、確かに胸のあたりが良く見えるだけど。そんなにみられると胸に穴があいちゃいます。


「いいなぁ。さっき洗いっこしてる時も思ったんだ、スタイルいいなぁって」

「お風呂の中だと胸が浮いてるから、大きくみえるんじゃない?」

「え、浮くの?」

「うん、浮くんだよ。軽くなるもん」


 ちょっと湯船から肩を出して見せてあげると、真夏ちゃんが「おー、ホントだ」ってもの珍しそうに感心してる。


「お母さんとお風呂入らないの」

「お母さん、おっぱいないもん」

「……」

 コメントしずらい。


「いつから大きくなったの?」

「え、えーといつかな。小6くらいかな」

「小6の頃から大きかったの」


 なにか自分の胸のサイズが気になるご様子。


「小6の頃は、こんなになかったよ。たぶん真夏ちゃんくらいだったんじゃないかな」

「ホント?」

「ホント、小6から急に大きくなったんだよ。朝起きたら胸があったんだよ」

「なにそれ~」

「本当だって、学校行こうと思ったらママに呼び止められて『あんた、その恰好で学校に行く気? 胸の谷間が見えるわよ』って言われたの」

「前の日までなかったの? おっぱい」

「そんなわけないじゃん。あったと思うけど気づかなかったんだよ」

「そんなわけないよ~」

「本当だって」

「こんなにおっきいのに?」


「ひゃん!」

 わわ、真夏ちゃんが横から私の胸を突っついている。

 くすぐったい!


「やわらか~い」

「やめ、やめてよ、くすぐったいって!」


 私が過敏に反応するせいか、真夏ちゃんが悪戯な顔になってきた。


「お姉ちゃん……さっきの仕返し」


 そういうと、今度は両手で胸とは言わず横っ腹とかおへそにツンツンし始めた。


「だ、だめ、あたし、それ、弱い、のっ。だっ、だめ」

「へへえ~、自ら弱みを暴露したわね」


 うわぁ攻撃が増した!

 お湯の中だと自由がきかないから、うまく逃げられない。

 ひっ! 脇腹の攻撃がっ!

 一番弱いところに攻撃を、あひっ!

 うっだめ、ここは身をひるがえして反撃を……


 ゴン!


「いったーーーい!」


 くすぐったさに身悶えながら身を反転させたのがよくなかった。はずみに巨大な蛇口に頭を強打。

 ちゃんと見てから動くんだったー。

 なんでこんなところに……なんで蛇口が……


「お姉ちゃん、大丈夫? 凄い音したけど」

「大丈夫じゃない~」

「ちゃんと見ないで動くからだよ」

「いっつーー! 血の味がした~」


 コブになってる。絶対コブになってる。

 両手で押さえてもアタマがドクドクいってるし。

 これ以上、バカになったらどうすんのよ。


 半べそで真夏ちゃんと顔を見合わせたら、心配そうに見ていた真夏ちゃんが急にクスっと笑い始めた。

 それがなんだか可笑しくて二人で大笑いしたら、これが響くこと響くこと。

 男子風呂の方から「うるせーぞ」とお叱りを頂いてしまったが、二人で口に手を当ててまたクスッと笑う。

 アタマ痛いけど楽しい~。



 のぼせてきたので洗い場に戻って、おしゃべりしながらまたキレイキレイ。アタマを洗っている真夏ちゃんの体をじっくり観察しちゃう。


 ふーん、一杯食べると背中ってこんなに丸くなるんだ。

 横も凄いなぁ。ウエストが全然なくなっちゃうんだ。

 前から見ると、私と同じでみぞおちからもりっと出てくるんだね。でも真夏ちゃんは私よりお腹の上の方が膨らむみたい。

 何て言うかまだ胸が全然ないからキューピーちゃんみたいだけど、これは言っちゃいけないな。傷ついちゃうかもしれない。


「なるほどね~」

「なにが?」

「そうなるのね。食べると」

「じっとみてたの? もう」


 今度は真夏ちゃんが私の体と自分のを見比べている。


「なんかお姉ちゃんと並んで座るとコンプレックスだよ」

「まだ小学生じゃない」

「だって。そうだ! 今度お姉ちゃんの小学生の写真見せてよ」

「いいよ。でも、ちょっと今と雰囲気違うかも」

「そうなの?」

「まじめ~で、無口~な女の子だったのよ」

「えー。全然想像できない」

「全然か~。少しは片鱗ない? まじめそうな」

「残念ながら残ってないよ。まじめで物静かな女の子は銭湯で蛇口に頭を強打しないもん」

「ひど~い。それは真夏ちゃんが悪いんだよ」

「舞い上がってるお姉ちゃんが悪いんです~」

「うう、真夏ちゃんがいじめるよ~」



 お風呂上りは楽しみにしていたフルーツ牛乳を飲んだ。

 もちろん、ちゃんと腰に手を当てて一気に飲むように真夏ちゃんにアドバイスしてあげる。

 せっかくあるので、体重計にも乗ってみた。

 私は普通。体重は教えてあげません。


「40キロ!? 5キロも食べてる!」

 真夏ちゃんが自分の体重にビックリしてる。


「だって、そんなになってるんだもん、そのくらい増えてるでしょ。真夏ちゃんワンピ結構ゆるいのにそんなになってるんだもん」

「だって、タイトだとキツキツになっちゃうんだもん」

「分かる、それ! 私さ一度食べ過ぎてワンピ破いたことあるんだ」

「え、そんなのあるの!?」

「自分でもびっくりしたよ。背中の所がビリって」

「どうしたのそれ」

「恥ずかしかったよー。そんときは友達が上着を貸してくれたんけど、それから今日は食べるぞってときはストールとか持ったりしてるよ」

「すごい、やっぱり大食いのプロは違うよ」

「いやプロじゃないけど。でもプロっぱい物も持ってるよ。サキさんに、サキさんって商店街のマタニティショップのお姉さんなんだけど、ウエストホックを作ってもらったんだ。見てみる」

「見たい!」


 ウエストホックとは、スカートのホックを外してジッパーを一杯降ろしちゃってもスカートが落ちないアイテムだ。

 幅広ゴムの両側にクリップが付いてて、ホックを外したスカートのウエストにくっつけると、チャック全開でもスカートが落ちない!

 急な大食いで慌てることがない優れものだ。

 ……急に大食いするって、何なんだって話だけど。


「これだよ」

「? どう使うの」

「こうやって……」


 自分のスカートウエストの両サイドに、ちょんちょんとクリップを付けて、ウエストを引っ張って見せてあげた。


「へー、これ便利ー」

「でしょ、サキさんのアイデアなんだ」

「サキさんって凄いですね。サキさんも大食いなんですか?」

「あはは、違うよ。私の友達は全員大食いじゃないよ」

「ごめんなさい! 失礼でした」

「ううん、でもサキさんには大食い後の私の全身を隅々見られてるからなー」

「えー! まさかそんな関係だとか」

「そんな訳ないじゃない。もう真夏ちゃん想像力逞しすぎ」

「や、そ、そんなことばっかり考えてません。ホントです」

「そうだ、ウエストホックじゃないけど真夏ちゃん後ろ向いてごらん」


 ハテナを浮かべる真夏ちゃんの髪を梳いて、ちょっとアップ気味のポニーテイルに留めてあげる。

 そして両手で作った蕾にひそめたそれを、真夏ちゃんの目の前でそっと開く。


「真夏ちゃん、これ」

「あ、シュシュ!」

「さっき、見たお店でかわいいって言ってたじゃない」

「もらっていいんですか!」

「もちろん!」

「ありがとう!」


 朱色に白のクロスラインが入った、ちゅるんとしたシュシュ。私もかわいいなぁと思ったし真夏ちゃんのイメージに合ってると思ってたんだ。


「付けてみて」

「はい!」


 嬉々として鏡の前でシュシュに髪を通す真夏ちゃん。


「どうですか?」

 そういってる顔がもうぱぁーと華やいでいる。


「うん、バッチリ! そのワンピにも合ってるよ。同じ赤のポイントカラー入ってるしね」

「ありがとう!! お姉ちゃん」

「私も色ちがいで買っちゃった」

 て、私が言い終わる前に真夏ちゃんが、ふわっと私に抱き着いてきた。

 うう、かわいい。かわいすぎてついギュっとしちゃう。


「う、お姉ちゃん、あんましギュッとすると出ちゃう」

「ん?」

 そういえば、さっきから固いお腹が当たってるし。


「ごめんごめん。ねえ真夏ちゃん、勉強の事一緒に考えようよ。お姉ちゃん真夏ちゃんの力になりたいんだ」

「えっ、でも」

「大丈夫、お姉ちゃんに任せて!」

「……」


 よっし真夏ちゃんのためだ。がんばるぞ!


 ・・・・


 夕焼けの帰り道は思い出色。

 夕餉の香りが漂うとパパとママと手をつないで歩いた子供の頃を思い出しちゃう。

 いつの間にか、私が手をつないであげる立場なんだなぁ。

 いつか先生と私と、そして……うふ。


 そうだ、今度は先生とお風呂に行こうっと。

 男湯と女湯で別れちゃうけど、一緒に行って一緒に帰ってこれるのはいいなぁ。

 私は涼しげな綿絽のゆかたで、先生は吉原つなぎの浴衣にカラコロ下駄を鳴らして桶を持って二人で歩くんだ。


 いい!

 なんかロマンチック!

 先生と浴衣探そうっと!

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