8-3

僕たちが管理局につくと、既にみんな集まっていて、高地はすぐに説明を始めた。事態が深刻な状況なのは高地の顔つきを見ればわかる。


「上野局長は新宿の本部管理局にいる。当分帰れそうにない。それで、とりあえず俺が状況を報告する」


1区~5区の管理局局長は新宿にある管理局本部でいまだ会議中らしい。こんなことは初めての経験だった。


「端的に言おう。近藤至の計画はアンドロイドの朝鮮連邦共和国への密輸だ。この件に関して、陸上自衛隊の関与が示唆されている。これは星崎たちが回収した、例の盗難アンドロイドの電子頭脳から、映像データの断片を再構築して判明したことで、おそらく事実だ」


朝鮮連邦共和国は朝鮮半島に広がる日本の隣国であり、30年前に南朝鮮と北朝鮮が統一されて生まれた新興国家であったが、未だ内戦がやまない地域である。


「密輸って、東京都のアンドロイドを国外に持ち出すんですか」


守月の声もいつもとは違う緊張感が感じられる。アンドロイドは人の管理無くしてその存在を許されない。東京都以外に持ち出すことはあってはならない。


「そういうことになる。どのような方法で密輸するかについてまでは、分かっていない。なにせ、電子頭脳は破壊されていて、断片的なデータしか回収できていないから、事実関係の詳細は現在も調査中だ」


アンドロイドを密輸するには輸送ヘリか、船舶が必要だろう。アンドロイドだけでなく、充電ポッドや長期に使用するためには整備端末も必要になる。


「で、これまでの手がかりから推測すると、陸上自衛隊に配備されたアンドロイド5体、あれが密輸対象になる可能性がある。これはまだ確定した情報ではない。ただ、可能性としてはそれが一番高い」


「それって、守月が担当している機体ですよね?」

「ああ。そうだ。管理体制を強化してくれとの通達が出ている。いつでも遠隔起動停止ができるよう、既に本部長の命令書もここにある。万が一の場合、強制機動停止の承認は俺がやる」


「高地さん、あの機体、身体機能のリミッターが解除されているように思うんですが」


石上が指摘する。


「ああ、リミッターは解除されている。東京都の特別承認だ。しかし、これにも近藤の関与が示唆されている。あらかじめ、リミッターを外したアンドロイドを5体用意したかった、たぶんそれだけだ。災害救助用とか、そんなのは名目上の問題。だから盗難したアンドロイドでリミッター解除後のテスト運用を行っていた」


やはりあの盗難アンドロイドはリミッター解除後の試験運用を行うために持ちだされたものだった。


「密輸計画は確かだが、その方法を含め、それ以上はあくまで推測に過ぎない。事実関係の詳細は本部管理局と警視庁が調査中だ。だが可能性としては十分あり得る。陸自に配備されたアンドロイドの動きに注意してくれ」


*****


佐々木は、田邉重工製の21式大型トラックに乗り込むと、エンジンをかけた。最大22名の乗員を載せることができるこの大型トラックに、今は佐々木一人しか乗っていない。朝霞駐屯地の正門前で守衛の自衛隊員に呼び止められ、一旦停車した。


「佐々木陸佐、どちらへ」

「訓練だよ」

「本日、訓練は予定されておりません。積み荷を確認させて下さい」


自衛隊員が車の後方に回るのを確認すると、佐々木はアクセルを思いっきり踏んだ。バックミラーに映る守衛の自衛隊員があわてた様子で、携帯通信端末に向かって何かを叫んでいる。きっと応援を呼んでいるのだろう。


佐々木はトラックを運転しながら、胸ポケットに手を入れ、携帯通信端末を取り出す。


「近藤君、準備は良いか」

『はい、佐々木部長、いつでも大丈夫です』

「臨海副都心経由でそちらに向かう。アンドロイドは無事に収容し、現在輸送中だ。もう、ここらで良いだろう。遠隔操作プログラムに切り替えろ」

『了解しました』

「そちらに着いたらまた連絡する」

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