5.変化
5-1
東京都第2区。かつての東京都と埼玉県の境目付近であったこの地区は、都心のベッドタウンとして広大な住宅街が形成されていた。しかし、急速に進む高齢化は郊外の住宅街にも深刻な影響を及ぼし、ベッドタウンとして形成された街並みは年月とともに寂れていってしまった。
陸上自衛隊の朝霞駐屯地は、そんな住宅街跡地を侵食し、日本最大規模の自衛隊施設となっている。この駐屯地では主に首都圏防衛が想定されているが、その広大な敷地には様々な自衛隊関連施設が存在し、関東甲信越地方及び中部地方の一部を管轄する東部方面総監部もここにある。
近藤至はやや肩を落とし、覇気のない表情で車を走らせている。東京都心から北西部へ向けて1時間ほど、朝霞駐屯地の正門でいったん車を停止させると、ドアの窓を開け、守衛から通行許可証を受け取る。そして、エンジンをかけ直し、そのまま敷地内へ入っていった。巨大な演習施設の横を通り過ぎ、駐屯地内の北側にある装備施設本部棟の駐車場に車を止めた。
秋の風は冷たい。たまに吹き向ける風に、落ち葉が舞う。近藤は重たい足取りで3階建ての灰色の建物に入っていった。
「例のものは無事だったか」
「はい、佐々木部長。無事に回収できました。しかしながらアンドロイド1体が機動捜査員の手によって破壊、回収されました」
佐々木と呼ばれた、椅子に腰かけている男の胸元には一等陸佐の階級章がつけられている。
「近藤至君、慎重に行動してくれと、あれほど言ったじゃないか。いくら私が東部方面総監部の装備部長であろうと、できることと、できないことがあるのだよ。たまたま例の機動捜査員がアンドロイドを破壊してくれたから良いようなもので、もし無傷で回収されたら、こちらの計画は全て筒抜けになってしまうのだぞ。事の重大性を理解しているのかね、君は」
「はい。申し訳ございません、佐々木部長……」
「これを見たまえ」
佐々木は1通の書類を机の引き出しから取り出して、近藤に渡した。書類の表紙を見れば東部方面総監部の装備部長である佐々木孝之に宛てた命令書であることは分かる。
「災害救助用アンドロイド5体が私の管理下に入った。まあ実際の管理・監視業務を行っているのは5区管理局だがな。近藤君、今回のミスは水に流してやろう。その代り、遠隔操作システムの起動を急げ」
「はい。承知しております」
「新宿で、あの捜査員たちにアンドロイドを目撃されたことも今回の失敗を招いている原因のように思われるのだがな。君はつくづく運の無い男だ。あそこのビルは引き払った方がいい。しかし、なんだってクロノス型アンドロイドを管理局に配備させたんだ?私の想定外だよ」
「東京都が数年前から配備を急いでいたもので。今回、災害救助用アンドロイドの申請書類などの手続き上、クロノス型アンドロイドの配備を拒否することはできませんでした」
「とにかく、もう失敗は許されん。君も覚悟したまえ」
「はい。十分に気を付けます……」
近藤は佐々木に頭を下げると、来た時と同じように肩を落とし、ゆっくり部屋から出ていった。
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