第23話 Ruby

 あの時のままだ…。

 施設は、何事も無かったように、その姿を変えていない。

 無機質で装飾の無い大きな箱。

『TOYBOX』

 施設の職員は、自分たちが勤務する、この施設をそう呼んでいた。

『おもちゃ箱』

 ここは、奴らにとっておもちゃ箱。

 収容された患者を『おもちゃ』として扱う…自分たちの、お気に入りの玩具が詰まった『おもちゃ箱』

 壊れても、すぐに新しい玩具は補充される。


 でも…おもちゃが自らの意思で動くことなど容認できない。

 まして、逃げだすなど…。


「俺だ…施設に戻った…」

 タケルが水晶みあのスマホへ電話する。

「あ~…早かったね~」

水晶みあは?」

「寝てるよ…丁重に扱ってるから、なにせ僕の身体になるかもしれないんだ…当然だろ?」

「貴様!」

 思わず自分のスマホを握りつぶしそうなほど左手に力が入る。

「受付でカードを受け取って、後は解るね?キミが逃げたエレベーターに乗って戻っておいで…サード」


 言われた通り、受付でカードを受け取った。

(懐かしくはないな…)

 エレベーター…これだけが外と繋がる唯一のみち

 飛び越えられない、高い…とても高いフェンスだった…。

 憧れた…この身体に、こびり付いた知識でしかしらない外の世界。


 捨てるなら…貰ってもいいだろ?

 俺は…俺になった…。


 エレベーターは地下へ…地下へ…。


 ドアが開く…白い壁を照らす青白い蛍光灯、冷たい空気…こんな場所でも郷愁を感じるのは不思議だ…。


「サード…おかえり」

 通路の奥から白衣の女性が現れ声をかける…やさしく…おだやかな表情で。

「M2…」

 タケルが女性を睨む。

 見た目は三十前半だろうか…容姿は整っている。

 だけど、その眼は年齢にそぐわない嫌な光を携えている。

 美人だけど…なんか暗く、近寄りたくない…そんな印象を与える。

「帰ってきたつもりはない!水晶みあを返せ!」

 ふぅ~っと溜息を吐き、気怠そうに

「相変わらず…状況が視えないのね、バカな子…返すくらいなら取り上げやしないわよ」

「そういうことだ、サード」

 横のドアが開いて、あの男が姿を現す。

「お前…生きていたのか…たける

 そう…タケルの横に立った男…一緒に逃げたたける

「フフフフッ…そうね…たけるよ…身体はね…」

 M2が笑う。

「そうだよ~僕だよ…サード、会いたかったよ」

 たけるが、からかう様にタケルの手を握って振り回す。

「放せ!…たけるじゃない…んだな…」

「中身がね…違うのよ、来なさい…教えてあげる」

 M2が奥の部屋を指さす。

「聞けば…考え方も変わるわ…水晶みあ?だったわね…あの娘と永遠を生きられるかもよ…」


 Ruby…『宝石の女王といわれるルビー、赤以外のものはサファイアと呼ばれる。ダイヤモンドに次ぐ高度を誇る宝石。石言葉は威厳』





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