第1話 Amethyst

 ハロウィーン、人々が浮かれ騒いで街を練り歩く。

 思い思いのコスチュームに身を包み、何でも許されると思いあがった輩が騒ぐ夜。

 抑圧された日常を忘れる様に、無理やりに心の壁を取り除く…狂気の様相が日常を染める夜。

 この騒ぎに乗じて、行われた大量殺人…隣の人が死んで倒れているのか…酒に酔い潰れているのかすら解らない、誰も気に留めない…衣装に付いているのが血なのかインクなのかも解らない、胸に突き刺さった包丁が本物か偽物かも解らない…。

 忘れ去られた現実は虚構に紛れて静かに…鎌首をもたげてくる。

 Smooth鮮やかな Criminal犯罪者

 すれ違い様に殺す。

 話しかけながら殺す。

 5人目までは数えていた…あとは覚えていない…。

 そう語った犯人は、その後、心神喪失状態に陥り今は精神病棟で軟禁されている。


 この夜は、このサイコキラーのニュース一色だった。

 だが…起きた犯罪はこれだけではない…。

 大小を問わなければ、幾つもの犯罪が起きたのだ…報道されていないだけで…。


 佐奈子さなこも友人3人と仮装して街で騒いでいた。

 路上で声を掛けられて…さらわれる様に路地に連れて行かれた…何人かの男に代わる代わるに犯された。

 3人目までは覚えている…その後は覚えていない…。

 はぐれた友人達が警察官と佐奈子を見つけた時には殴られて顔を腫らして泣いて地に伏している状態であった。


 病院で事情聴取を終え…早や1週間が経とうとしていた。

 佐奈子は病院の屋上にいた。

 金網を乗り越え…縁に立つ。

 吹く風に身を任せ身体を宙に預けようとフラフラと揺れていると…カタンと足元に何かが転がり落ちた。

 灰色のコンクリートに転がったもの、深い紫色の歪な石。

「アメジスト…」

 それは紫水晶のように見えた。

 だが…佐奈子が知っている紫水晶より深い色を称え、どこか不気味さを醸し出している。

 指先で拾い上げると、心臓がトクンッと大きく脈打った。

 放りだしたい。

 反射的にそう思ったのだが、そんな思いとは裏腹に佐奈子は紫水晶を硬く握りしめていた。

「イタッ」

 掌に食い込むような痛みが走る。

 頭に女の子の声が響く…

「要らないなら頂戴…身体が欲しいの…アナタ捨てるんでしょ、だったら頂戴…ねっ」

 声は大きくなり…痛みが徐々に強くなる…。

「アナタの代わりに…生きてあげる…気が向いたら復讐してあげるわ」


 サナコが目を覚ますと…病室の天井。

 指先を目の前でカキカキと動かしてみる。

「白い…天上…長い指…アタシの身体…」

 枕元には『石神 佐奈子』

「イシ…ガミ、サナコ…アタシの名前…」


 サナコが退院する3日前。

 ハロウィーンの無差別殺人犯は心身喪失状態に陥った。

 彼は最後に叫ぶように笑い…その眼からは紫色の涙が流れたという…。


 Amethyst…『紫水晶 2月の誕生石 石言葉は覚醒』

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