第16話 Peridot

「アナタの容姿が悪いのは私のせいじゃないわよ」

 水晶みあが同じ店の嬢と揉め事を起こしている。

 サラッと他人の容姿をけなせるのは、客観的に自分と他人を比較できるからだろう。

 アタシの身体は優れている。

 アナタの身体はアタシより劣っている。

 第3者的に容姿を判断しただけ…。


「なんでアタシ指名客が少ないんだろう、水晶みあはいいね太客多くて…」

 水晶みあに嬢が聞いたのだ。

「ん…私は顔がいいから」

「おぉ~自信あるのね?顔だけなのに」

「顔だけでもアナタより優れてるってことでしょ…」

「はっ?ケンカ売ってる?ねぇ!」

「アナタの容姿が悪いのは私のせいじゃないわよ」


 水晶みあに悪気はない。

 ただそう思っただけ。

 自分の方が容姿が整っているのだから…。

(なぜ、この嬢は怒っているのだろう…)

 目の前で自分に罵声を浴びせる嬢を、アクビしながら見つめる水晶みあ

水晶みあちゃん…ご指名だよ、すぐ出れる?」

「行けるわ…ドライバーはタケルにしてね」

「はいはい…」


「悪いけど…また指名されたから…またね…アナタも呼んでくれる人がいればいいのにね…あっ、薦めておきましょうか?アタシのお客に」

「バカにしないでよ!」

 水晶みあに飲みかけのペットボトルを投げつける嬢。


「タケル、ホテル送って」

「あぁ…」

 車に乗り込む水晶みあは、この10分くらいのドライブが好きだ。

 助手席でタケルの腕に抱きついて送ってもらう。

水晶みあ…あんな言い方よくないよ…」

 タケルが水晶みあたしなめるように言った。

「ん…なんで?あの嬢、人気ないんでしょ…しょうがないわよ…アタシに絡んでもねぇ~」

「でも…」

 なにか言いかけたタケルにキスをして言葉を塞ぐ。

「タケル…好きよ…ずっと好き…ずっと一緒にいる」

「うん…俺も好きだよ…ずっと一緒に居たい…」

 ホテルに着くとキスをして、手を振りながら部屋に向かった。


(ずっと一緒…永遠か…)

 タケルは車をホテルの横に停車させ、タバコを吹かして空に吐きだした。

 ジッポをカキン…カキンと指で弾きながら、水晶みあを待つ。

 店では部屋掃除、水晶みあが外で呼ばれればドライバー。

 別に専属というわけではないのだが…暗黙で水晶みあの専属のようになっている。

 子供のように機嫌の波が激しい水晶みあがタケルがいることで安定するから、オーナーも黙っている。

 それが、他の嬢の反感を買うのだが…。


(こんな日は、いつまでも続かない…休憩時間と同じだ…短い休息…)

 アイツらから追われている自分には…永遠なんて…。


 いつか水晶みあの前から姿を消さなければならない。


(見つかる前に…)


 Peridot…『美しい黄緑色に発色する、8月の誕生石。和名はオリーブを意味する、かんらん石、石言葉は信じる心』

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