第15話 Rough Diamond
「タケル?」
クスッと笑い、
気配を消す様にそっと、シャワールームへ向かい、ドアを開ける。
「ただいま」
そう言って背中を向けていたタケルに抱きつく。
ビクッと反射的にタケルの身が強張る。
「
タケルにキスをせがむ
「もう上がるから…」
タケルは
(一緒に湯船に浸かりたかったのに…)
自身のことにすら執着が無いゆえの達観した存在から、タケルに依存した幼子のように…。
「タケル…その絆創膏、まだ治らないの?」
身体を拭くタケルの背中に大きな絆創膏。
以前から気になったいた
「ん…あぁ…火傷なんだ…水に触れさせたくないから…」
曖昧に返答して、タケルはバスルームから出て行った。
これが幸せだと感じているのか…あるいは、ただ楽しいだけなのか…。
浮かれている。
だから…それとも、他人の気持ちを察するところまで成長していないのか…。
タケルの表情が曇っていることに気づいていなかった。
タケルが部屋に戻ってシャツを脱ぎ、背中を大鏡に映す。
絆創膏を剥がす…。
『PTD No3』
火傷ではない…刻印だ。
家畜に施されるナンバリング。
PTD…
「はぁ~」
と大きくため息を吐くタケル。
(隠し通せるわけもないか…)
幾度も焼き潰そうとした刻印。
なぜ、そうしないのか…タケル自身も、そのわけは解らない。
あるいは、あの男の意思が残っているのかもしれない…そんな風に思うこともある。
あの施設で、うずくまるだけだった男。
白い部屋で、自分に身体を譲った男。
身体を得た高揚感、男の記憶、知識、その全てが自分のものになった日。
でも…自由は無かった。
常にモニターが付いてくる日々。
何かを試されるだけの飼われている自分。
逃げ出した夜…ゴミ捨て場で眠る夜…追われ、隠れる日々。
(いつか…ここも見つけられるに違いない)
毎日…毎日…毎晩…毎晩…不安は募る。
その気持ちに気づいてから…不安は増すばかりだ。
佐奈子を見ていると、その無邪気さに惹かれる。
表情の無い女。
最初の印象はソレだけだった…暮らし始めて、今になって思うと佐奈子は笑うようになった。
自分といることで笑うようになったのであれば…自分の存在を、佐奈子という鏡を通して感じることができている気がした。
だから…だからこそ…俺は…。
Rough Diamond …『ダイヤモンドの原石。地球内部の非常に高温高圧な環境で生成されるダイヤモンドは定まった形で産出されない。石言葉は隠された秘密』
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