第14話 Moldavite

『個』として生きてきた…いや存在してきた水晶みあに他人の気持ちを察しろというのは無理な事なのかもしれない。

 強い念の塊であるがゆえ、それゆえの純粋無垢とも取れる行動・言動。

 それは『黒』でも『白』でもあるのだが…混ざりが無い純粋な単色の感情。

 幼子の様な部分。


 田舎の祖父が他界し、葬式で親戚が集まる…そのことが楽しくて、祖父の死を高揚感が超えて、はしゃいでいるような幼子。


 水晶みあは精神的に幼い。

 知識はあるのだ。

 佐奈子の知識を自分のものにしているのだから。

 しかし精神的には、幼い子供と同じレベル。

 成人している大人から見れば少しズレている。

 頭がいいだけの子供…勉強が出来るだけの大人…。


 どこか変わっている。

 それが風俗嬢という職業では魅力となっている。

 大概の客は、風俗嬢を優しく扱うチヤホヤされることに慣れている。

「キレイだね」なんて挨拶にもならない。

 普通のOLが他人から「キレイだね」なんて言われることは少ないだろう。

 言う方も「セクハラ」なんて返されかねない。

 彼女達は1日に何回言われる?…1時間に何回も聞く言葉なのだ。


 お金だって、勤務だって普通のOLと比べれば恵まれている。

 しかし…そこは普通とは違う世界でもある。

 水晶みあはソコしか知らない…普通を知らない…。


 身体は大事なモノ。


 憧れて…憧れて…やっと手に入れた身体。

 運よく、その容姿は並より遥かに優れていた。

 佐奈子の容姿が他人と比べ勝っていることを水晶みあは知っている。

 客観的に比較しているから。


 仮に劣っていたら?

 風俗なんてやっていたのか…愚問というやつかもしれない。

「この身体は金を産む…」

 水晶みあには、それだけで充分だった。


 きっと、容姿が金にならなかったとしても…それなりに…興味を満たすためだけに何かしていただろう…。

 佐奈子が強姦にあっていなければ…性に興味が向くこともなかったのだろう…。


 TVの、あの男のように…ただ欲望を満たすためだけに…刹那的に…衝動的に…動いて『無』になって…。

 きっと、どこかに帰依するのだ…。


 自分以外にも…きっと沢山いる。

 今までも…これからも…。


『凶悪な事件を起こし、紫色の涙を流して心神喪失状態に陥る、世界中で多発している事件、Purpleパープル Tearティア Dropドロップ 通称PTDと呼ばれ先進国では2次大戦前から研究対象となっているとのことですが…』

 TVでは都市伝説めいた話が流れている。


 水晶みあはクスリと笑った。

 タケルに抱きつきキスをねだる。

(PTD…もう少し洒落た名前は無かったのかな…)


 Moldavite…『1500年ほど前にドイツの南方に落下した隕石が原因で生成されたといわれる緑のレアストーン。石言葉は自然のおきて』

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