第11話 Nephrite
「硬くなっちゃったね…」
少し硬くなった御飯…そんな一言で笑える。
2人で潰れたケーキを食べて…また笑う。
この時間は永遠のように感じられる…漂っていたときとは違う。
永遠の感じ方…身体は老い…腐り散りゆく…それでも、身体を欲したのはなぜ…。
今…それが解った…。
タケルの唇に自分の唇を重ねる。
誰より暖かく…安らげる…。
求められることには慣れている…だが求めたのは…欲したのは身体じゃない…この温もり、安らぎ…。
今…それが理解できる…。
永遠を捨てなければ、この温もりは得られなかった…そして得た、今は…再び永遠を欲してしまう。
離れたくない…唇から…互いの身体を重ねる…欲したのではない…ただ…離れたくないだけ…離したくないだけ…。
夜明けを2人で迎える…朝日を心地いいを感じたのは久しぶりなような気がした。
いつもは、またくだらない時を刻むことに嫌悪するだけ…そのために目覚める。
目覚めて思うのは…(また…目が覚めてしまった…)そればかり…。
眠るときは…もう…目覚めなくていい…そう願い眠りにつく…。
昨夜も…そう願った…この腕に抱かれながら眠れるのなら…もう…最後でいい…そう思った。
だけど、目覚めて感じたのは…後悔ではない、そのことに一番驚いたのは
まだ眠る、タケルの顔に指を這わす…アゴに薄い髭が生えている…カミソリ負けしたのだろう、頬のラインに赤く化膿したポツリとしたデキモノがある…そんなモノですら愛おしい。
タケルが目を覚ますまで、
寝返りをうって…目を覚ましたタケル
「あっ…おはよう…佐奈子…」
「おはよう…」
(佐奈子…そう…私は佐奈子…なんだ…タケルにとって…)
そう
自分でつけたとはいえ…戸籍上は佐奈子が正しい…タケルは机の上に置きっぱなしだった免許証を見て誕生日を知った。
自分を佐奈子と呼ぶのは、むしろ心を許してくれたと喜ぶべきことなのだろう…。
でも…佐奈子は…ワタシではない…私は
説明しても…意味が無い…というか信じてもらえるわけもない…。
そもそも自分も、自分の存在を上手く説明する自信も無い。
今、シャワーを浴びている男…タケル…私が愛した男。
……私のことを何も知らない…男…。
私もタケルのことを何も知らない…自分のことを語らない男。
Nephrite…『腎臓の石を意味する。中南米で腎臓の治療に使われていたことからスペイン人が名づけたのが元と言われる。石言葉は平穏』
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