第25話 Amber

「世界を変える?バカなことを…」

 振り払うようにタケルが首を横に振る。

「何をするつもりなんだ…」

 静かに口を開いたタケル。

「何を?世界の要人と入れ替わるのよ…考えてごらんなさい、PTDの最大のメリットは記憶、すなわち経験ごと獲りこめることよ」


 確かに…経済界でも政界でも数人の要人と入れ替われば可能な話かもしれない。

 彼女の話ではPTDには無限の時間がある。

「時間さえかければ…ということか…」

「そうね…でも、悠久の時は必要ないはずよ、私はPTDとしての自分を他の誰より理解してるわ…考えて、あなたと水晶みあだって、姿を変えて永遠を生きられるのよ…」


(永遠…)

 肉体を取り換えながら永遠を水晶みあと暮らす。

 望んだことが無かったわけではない。


「それじゃ僕の身体はどうなるのさー」

 F´が苛立った口調でM2を睨んでいる。

「あなたは、また別のプロジェクトで…ねっ」

 F´をまるで子供をあやすようになだめるM2。

「あの女の身体がいいんだよ…僕はさー」

 苛立ちが強まったようで、顔がヒクヒクと痙攣している。


「見せたいモノが、まだあるのよ…」

「見せたいモノ?」

「アナタは会ったことないでしょ…セカンドに…」

「セカンド…欠番だと聞いたことがあったが…」

「欠番…といえばそうね…ロストNoではあるわね…いらっしゃい」


 部屋を出て、さらに地下へ移動する。

 厳重な扉を開けると、大きな水槽にイルカが泳いでいる。

「まさか…」

「ふふふ…イルカがセカンドよ…なんてオチはないわ…」

 一瞬、タケルは「このイルカが…」そう思ったのだ。

 水槽の中央に沈められている大きな紫水晶。

 ガカッと音を立てて水槽の紫水晶に照明があたる。

 大きな紫水晶…その中央にうずくまる様な人のシルエットが浮かぶ。

「彼女がセカンド…そして…その身体に閉じ込もっているのが、始祖…私たちはマザーと呼んでいるわ…」

「マザー?始祖?」

「そう…現状で最も古いPTD…彼女の身体を覆うのは無数の意思…彼女から溢れだした意思…」

「意思…セカンドとは何なんだ?」

「セカンドは、始祖の受け皿として用意された特別なうつわ…マザーを取りこんだまま目覚めなかった…」

「なぜ…沈めてあるんだ?」

「取りこみ続けるため…失わないため…何度も…何度も…溢れだすの…解放を望むように…紫の涙を流し続ける…水槽を漂い…身体に付着し再結晶化する…」

「イルカは?」

「反応するの…時々、話している様に…何らかのコンタクトをとっている…気づいたのは最近よ…」


「ん…タケル…」

 イルカがクケケケケケッと鳴いた…。

 水晶みあが、隣の部屋で目を覚ました。


 Amber…『アンバーは数千年前の松柏科植物の樹脂の化石、和名は琥珀。古代の虫や植物が閉じ込められたものはインセクトアンバーと呼ばれる。石言葉は創造』

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