第24話 Turquoise

 M2がポケットからカードを取り出し、セキュリティを外す。

 カシャッと軽い音がして、部屋の扉が開く。

 殺風景な部屋。

 壁にはキチッとファイルが並べられている、比較的新しそうなファイルの背表紙には『PTD』の3文字が書かれている。

「気になる?アナタのファイルもあるわよ…当然だけど…ファイルは飾りみたいなものよ、バックアップはとってあるから」

「何を話すつもりなんだ…」

「そうね…何を、というより…何処から話すべきか…最初から話しましょうか?それとも、ファーストのことがいい?時間はあるから、最初から話しましょうか…」


 ここはね…もともと軍施設だったのよ…。

『帝国陸軍中野学校』


 …………M2が語る長い…長い…話…。

 昔から、憑依あるいは狐つきといわれる人格変異の大半は、PTDによる乗っ取りによるものだった…。

「そこの古い書物は、そんな事例を集めた資料よ…」

『遠野物語』なんかも無造作にファイルの間に並べられている。

 科学的に、この人格変異について研究していた人達は世界中にいた。

 仮説だけは無数にたてられる…しかし証明ができない。

 研究としての価値は無価値、仮に証明できたとしても、それが何を産むのか…。

 だけど…その過程は無視して結果だけに価値を見出そうとした機関があった…戦争という狂気が支配した時代があった。

「私はその施設で産まれた…ひとつの結果よ」

「その施設で…その時代って…お前、幾つなんだ」

「そうね…少し端折りましょうか…」


 PTDの有効利用、そのひとつが身体の交換が可能なこと。

 身体を捨てて…新しい身体を得ることができる。

 男の場合は精液として、女の場合は卵巣に着床して胎児として身体を得ることができる。

 そのメリットは、記憶を引き継げること。

「身体だけを入れ替えて、永遠に生き続けることができるってことよ、転移と呼んでいたの」

 タケルがチラッと猛を見る。

 猛がタケルにヒラヒラと手を振る。


「ナチスと日本が共同研究したPTDの生き残りが研究を引き継いでいるのよ。ヒトラーもPTDだったわ…最後は転移せずに自害したけど…」


 色々、試した。

 PTD同士の交配で繁殖は無理だということも解った。

 男女の性格・人格は最初に憑依した性別に左右される、結晶化の段階ではオス・メスの区別はない。


「猛は?ファーストは…どうした?」

「彼は、連れ帰る途中で自ら身体を捨てた…空っぽの身体に憑依させたのが今の『F´』よ」

「それでダッシュか…」


 憑依には条件がいる。

 誰でもいい、というわけにはいかない。

『生に執着の無い状態』で結晶化したPTDに触れること。

 完全な定着には個体差があるが、概ね2ヶ月ほど掛かる。


「サード…自分のことを知りなさい。時間はあるの…無限に、そして…この世界を…歪んだ今を変えるの、PTDの私たちが」


 Turquoise…『最も古いパワーストーンの一つで、ターコイズブルーと言われる美しい空色が特徴の12月の誕生石。石言葉は繁栄』

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