第31話 Pearl
タケルはF´に完全に押されていた。
パワーはもちろん、スピードも桁違い。
通路をドンドン後方へ、今、来た部屋へと戻されていた。
くらえば、その1発で決着が着く…そんな容赦のない攻め方だ。
タケルは避けるだけで精一杯、とても紫水晶を突き刺すことなど出来そうもない。
F´の蹴りが顔をかすめ、タケルの足がもつれた…。
(しまった!)
身体をひねったまま、F´の左裏拳がタケルの肩に食い込むようにHITする。
上半身が右に流されたまま、さらに回転したF´が右の拳をタケルの左ほほに叩きつけた。
廊下の壁に叩きつけられたタケルの身体がズルズルと床に沈み込む…。
「…ケル……タケル……」
(
薄れゆく意識の中で空耳のように聴こえる
F´が止めを刺しにこない…。
「ぐあっ…ガッ…」
F´が背中を押さえて苦悶の表情を浮かべている。
「タケル!大丈夫」
「
霞む視界、F´の後ろに
折れたパイプを背中に突き刺していた。
パイプの穴を伝い、F´の血が床に滴る。
タケルは膝を両手で支えて立ち上がり、
「ぎゃぁあー」
今度は顔面を両手で押さえ床に沈むF´。
「貴様ー」
右目に溢れんばかりの怒りの色を携えてタケルを睨む。
「ぐっ…」
呻き声を上げて、F´の身体が強張ったように動きを止める。
(マリア…か…)
「タケルー」
「
左手は折れている…右手で
「行け……タケル…
F´から言葉が漏れる。
ビクン…ビクンと身体が波打つF´、マリアと意識がぶつかっているのだろう。
「行こう…今のうちだ…」
「待て!…サード!…ぐぁぁあー」
F´の苦悶の叫びが通路に響き、遠くなっていく…。
「クソッ!」
エレベーターの電源は遮断されていた。
しかたなく脇のタラップを登る2人。
「ママ…」
マリアの侵入を拒み、体外へ放出したF´がヨロヨロと立ち上がり呟く…。
壁を伝い、向かった先、タケルをが向かった反対側。
M2の部屋。
「ママ…どうして…」
ソファに横たわる意識のない抜け殻を抱きしめて泣き叫ぶ。
「あぁぁぁあー」
っと大きく叫び…彼は施設の破棄を実行した…。
バンッとボタンを叩き…M2だった身体を抱きしめる…。
施設の裏庭。
殺風景な景色、芝生に仰向けに倒れ込むタケル。
背中越しに、ズズンッと鈍い振動が伝わった。
タラップの出口から黒煙が上がる…。
(終わった…)
タケルが安堵の深いため息を吐いた。
Pearl…『6月の誕生石
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