第19話 Topaz

 タケルは、おそらくは水晶みあの客であろう男に後頭部を何かで殴られ、意識が朦朧もうろうとしたまま蹴られ、殴られ、ホテル脇の土手に転がされていたようだ。

 探しに行った若いドライバーが、タケルの呻き声に気づき事務所に連れ帰ったらしい。

 病院へすぐ連れて行かないのは、好判断だったといえよう。

 あまり、公に身分を明かせない人間もいるため、警察や病院に行く前に事務所の判断を仰いだらしい。


 タケル自身も病院は嫌がったらしい、意識があったので、事務所で免許の所持も怪しい闇医師に治療を頼んでもらった。

 あばらに2本ヒビが入り、頭を数針縫った。

 あとは打撲が数か所…。

 バットかなにかで殴られたのだろうということだった。


 水晶みあが、店を休んで1週間が経っていた、タケルの傍を離れようとしない水晶みあに苦笑いするタケル。

「どこにも行かないから…大丈夫だよ、店に行っても」

 そういうタケルに、フルフルと首を横に振る水晶みあ


 デリバリーで食事を頼み食べ終えた後、水晶みあはタケルの膝に頭を乗せたまま眠ってしまった。

 窓から月を眺めながらタケルは安堵していた。

(施設の追手じゃなくて良かった…)


 タケルが産まれた施設…N県にある表向き精神障害者の受け入れ施設。

 依存症治療なども行う施設、その地下でタケルは、この身体を手に入れた。

 アルコール依存で自暴自棄…ここに預けられた天涯孤独の若い男。

 死を望み続けて…やがてタケルと入れ替わった。

 その後、およそ2年間、タケルはその施設で過ごした。

『サード』

 それが施設での呼称。

 手に入れたと思ったら、今度は手放せという…。

 もともと高圧的な白衣の連中に嫌気がさしていた。

 同じような環境の『ファースト』と脱走したのだ…。

 登るエレベーターの中で、気持ちの高揚は抑えられない、2人は初めて見た月に興奮した。

 山を下りて街へ出て、しばらくは2人で行動を共にした。

『ファースト』は、おだやかな性格だった、猫や犬を可愛がり、鳥の声を好んだ。

 彼は宿主の名前をそのまま使っていた『たける』と…。

 東京へ来たのは、紛れるため。

 人ごみに紛れるため…必ず追手は来る…そんな予感が拭えなかったから。

 そして…ソレは来たのだ…。

 たけるが捕まった、自分を逃がすために…。

 その夜から、逃げた…逃げた…そして傷を負って、水晶みあと出会った。


 水晶みあの髪を撫で、月を見上げるタケル…同じ月を見上げてわらう男がマンションの前にいた。

「サード…見~つけた…」


 Topaz…『11月の誕生石で、カラーバリエーションが豊富な宝石。古代エジプトでは太陽神ラーの化身とされていた。石言葉は友情』

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