第27話 Citrine

「マグダラ…マリア…」

 水晶みあの呟きにM2はフッと笑って答えた。

「そう…呼ばれていたこともあったわね…遠い昔…神の子誕生に立ち会った頃…」

 姿はまったくの別人…だけど、水晶みあには解る…脳裏に刻まれた先ほどの黒い肌の女性…同じ人物だと。

 水晶みあが少しM2と距離をとる。


「そうね…あなたは私の欠片じゃないもの…警戒して当然ね」

「あなたの欠片?」

 水晶みあが怪訝そうな顔で聞き返す。

「そう…あなたはソコのマザーの欠片だもの…」

 水晶みあがM2に感じている嫌悪感はマザーが感じているものなのだろうか…好きにはなれないタイプ程度のものだが…。

(警戒…それが俺にも…)

 そう、タケルはマザーに軽い恐れを感じていた。

 反対にM2のことは好きではないが危険は感じていない。

(欠片…俺は彼女の一部ってことか…いや…彼女ですら、始祖の一部でしかないということか…)


 水晶みあも薄々気づいていた…タケルも、自分と同じPTDだということを…。

(タケルは知っているのかしら…アタシがPTDだということを…)

 無意識にタケルの手を固く握る。

(水晶みあ…俺が巻き込んでしまった…すまない…だけど必ず守る…この命と引き換えにしても…必ず…)

 守る。そう決意して水晶みあの手を握り返す。


 異なる始祖から派生した2つの欠片…、始祖の記憶すら引き継がない遺伝子の残りカス。

 交わらないはずの2人が出会い…気持ちを通わせ…仮初めの身体を重ねた…。

 イミテーション…コピー…この2人はERROR。

 長い年月が産んだ異質。


(奇形…いびつ…それゆえに危うく…そして美しい…)

 M2は、この2人に可能性を見出しつつある…その考えが自分で許せない…。


 女ゆえの嫉妬…母ゆえの固執…識者の好奇心…3つの自分が導いた答えは…。

「F´…水晶の身体を奪いなさい…憑依中のPTDを排出して…あなたの好きにするといい…」

 そう言うと背を向けて部屋を出ていく。

 タケルが水晶みあとF´の中央に立つ。

「ククククッ…勝てないよ…オマエじゃ…」

 F´はタケルを軽々と片手で持ち上げ壁に叩きつける。

「クハッ…」

 肺から空気が吐きだされる…幾度か壁に…床に叩きつけられ、タケルは意識を失った…。

 タケルが最後に視た水晶みあは…自分に手を伸ばしながら連れ去られる姿…。

(ゴメン…必ず…行くから…少しだけ…待っててくれ…水晶みあ…)


「タケルー!!」

 叫ぶ水晶みあの声が遠くに聴こえる…ドアが閉められると同時にタケルの意識は途絶えた…。


 Citrine…『鉄イオンの成分で黄色味を帯びた黄水晶。名前は柑橘類のシトロンの果実の色に似ていることに由来している。石言葉は生命力』

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