第13話 Ametrine

 その夜から、水晶みあはタケルと眠るようになった。

 タケルの傍にいると、安心と不安が入り乱れるような複雑な気持ちになる。

 だけど、離れていれば不安しか残らない。


 水晶みあはタケルという存在に依存していた。

 片時も離れたくない…仕事をしていても、タケルのことばかり考えている。

 ゆえにサービスもキスを避ける、性器に触れられることを嫌がった。

 それでも、その容姿ゆえに売り上げはTOP3を確保している。

 出勤率もいい…時間も決まっていてリピーターが付きやすい。


 そんな水晶みあの紹介でタケルは店で働くことになった。

 正直、水晶みあは、タケルには外出してほしくなかった、だけどタケルが働きたいと言うもので…止める理由もなく、それでもタケルを自分から遠ざけるようなこともしたくない。

 自分の傍に居て欲しい…そんな利己的な思いがあったことは否定できない。


 水晶みあは幸せだった。

 同じ時間に出勤して、同じ時間に帰る。

 時には外食したり、買い物をしたり、水晶みあは幸せだった…。


 仕事が終わればタケルが部屋掃除をする。

 水晶みあも手伝ったりもする。


 他の嬢から文句が出ても、「まぁまぁ」と店長がなだめていた。

 もちろん、水晶みあの機嫌を損ねないため、それもある。

 だが…不思議なのは、タケルには誰も文句を言わないのである。

 同様に働くスタッフあたりから嫌がらせを受けるとか、陰口を叩かれるようなことも無かった。

 タケルが特別、人当たりがいいということはない。

 むしろ、その逆といえるほどに、他人とは距離を置いていた。

 業務的な話以外は、ほとんどしない。

 自分のことはしゃべらない、そのかわりに、他人のことも詮索しない。


 風俗という環境もある。

 しかし…タケルは水晶みあにも自分のことは話さない。

 水晶みあのことも聞かない。


 奇妙な同居生活…は半年を超えた。

 互いの素性も知らぬまま…。


「タケル…好きだよ…」

 電車で帰る途中、水晶みあがタケルに、もたれ掛りながら呟く。

「客にも言うの?」

「えっ?……」

 それ以上、タケルは何も言わなかった。


 水晶みあが他人と交わった部屋を片付ける…気持ちがあればこそ、耐えられるものではない。

 水晶みあはタケルを傷つけていた。

 知らなかった…そんなわけはない…ただ…嬉しかったのだ。

 タケルの気持ちが自分に向いているという現実を愉しんでいた。


 きっと産まれることを拒絶された水晶みあの屈折した心は容易に他人が理解することはできないのだろう…。

 タケルには…どうだったのだろう…。


 水晶みあはマンションのエレベーターでタケルに抱きついてキスをした。

(ワタシのもの…私を愛してくれる人…愛おしい…愛おしい…)


 Ametrine…『紫水晶アメシストと黄水晶シトリンが混ざり合った希少な宝石。石言葉は光と影』

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