第6話 Sunstone

 電車から街の灯りを眺めていた。

 暗闇を流れるように様々な形、多様な色彩を目で追う。


 乗り過ごしたわけではない…少し違う景色が見たかっただけ。

 そして、流れる景色に心奪われていただけ…。


 それに少し飽きた頃、ふと知らない駅で降りてみた。

 駅の出て、夜の街を歩く…少し肌寒いが歩いて体温が上がった身体には心地いい。

 どこまでも歩けそうな気分、だけどヒールがその気分に水を差す。

 足の痛みと火照った身体を自動販売機に預け、冷たい炭酸を喉に流し込む。


「こんなところに女性一人で来るもんじゃないですよ…このあたりは危ないんですよ」

 にこやかに近づいてくる若い男。

「早く立ち去ったほうがいいですよ」

「そうなの…忠告ありがとう…そうさせてもらうわ」

 サナコが炭酸を飲み干し、男の脇をすり抜けようとすると…。

「そう…立ち去ったほうがいい…お金を置いて…服を脱いでからね」

 男は、相変わらず笑顔のまま、サナコの喉元にナイフをそっと当てた…。

「乱暴はしない主義でね…大人しく服を脱いで、少し目を閉じていれば大丈夫だよ、電車賃くらいは残しておくし、服も破れたりしない…抵抗さえしなければね」

 サナコはフッと笑って、空を見上げた。

 満点の星空、斜めの月が、あざ笑うように黄色く浮かぶ夜。

 男はサナコのスカートに手を忍ばせ、パンティの上から指を這わす。

(どこかで見たような気がする…デジャブ…)

 そういえば、佐奈子が犯された場所と、なんとなく似ているような気がする。


「お巡りさんコッチです、早く!」

 大通りから男の慌てたような声がする。

「急いで!」


 サナコに抱きついていた男が慌てて逃げ出す。

 行動に迷いが無い…慣れているのだろう…こうして金を奪うこと…女を犯すこと…そして逃げることに。


「大丈夫だった?」

 先ほどの男よりいくつか年上のように見える。

「えぇ…ありがとう」

「で…お礼の件なんだけど…」

「お礼?」

「そう…タダってわけにもね」

「なるほど…相手が変わっただけってことね…アナタはお金と身体どちらが目当てなの?」

「はっ!アッサリしてるんだね…どちらでもない…そこらのコンビニで包帯を買ってきてもらえないか?金は渡す、釣りは要らない、頼む…訳ありなんだ」

 男は右手で一万円札をだして、左手でジャケットをめくる。

 ワイシャツの脇腹付近が赤く染まっている。

「お礼ね…」

「そうだ…頼む」


 サナコはコンビニで包帯を5~6本買って、先ほどの路地へ戻った。

 男は身を隠すように、うずくまったまま動かない。

「生きてる…死んでるのなら帰るわ」

「……生きてるよ…死ぬような怪我じゃない」

 サナコは男のジャケットとワイシャツを荒っぽく、めくりあげ傷口に鞄からグリンスを

 かけた。

「消毒…これしか無いの」

「グリンス…おたく…風俗嬢か?」

「そうよ…商売道具で悪いけど…」

「いいさ…それより…もう少し優しく巻いてくれないか…痛くて…さ」

「ナースじゃないのよ…お金くれたら、恰好だけはしてあげられるけど」

「ははっ…痛っ…笑わせないでくれ、血が止まらなくなる」


 Sunstone…『ギリシア語で「太陽の石」という意味のヘリオライト(heliolite)という名もある宝石、石言葉は恋のチャンス』

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